フェルメールの全37作品を完全解説 – 作品数、一覧、所蔵美術館
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画家・彫刻家・建築家本記事では、フェルメールの全37作品を画像付きで詳しく解説致します。
作品数、制作年、絵画サイズ、所蔵美術館など、フェルメール作品を鑑賞する上で基本となる情報が満載です。
- 1 フェルメールの作品数
- 2 フェルメール全37作品一覧
- 3 ① ディアナとニンフたち
- 4 ② マルタとマリア家のキリスト
- 5 ③ 聖女プラクセデス
- 6 ④ 取り持ち女
- 7 ⑤ 眠る女
- 8 ⑥ 小路
- 9 ⑦ 窓辺で手紙を読む女
- 10 ⑧ 士官と笑う女
- 11 ⑨ 牛乳を注ぐ女
- 12 ⑩ 紳士とワインを飲む女(ワイングラス)
- 13 ⑪ ワイングラスを持つ娘
- 14 ⑫ 中断された音楽の稽古(稽古の中断)
- 15 ⑬ デルフトの眺望
- 16 ⑭ リュートを調弦する女
- 17 ⑮ 天秤を持つ女
- 18 ⑯ 音楽の稽古
- 19 ⑰ 青衣の女
- 20 ⑱ 水差しを持つ女
- 21 ⑲ 真珠の首飾りの女
- 22 ⑳ 真珠の耳飾りの少女
- 23 ㉑ 手紙を書く女
- 24 ㉒ 絵画芸術
- 25 ㉓ 合奏
- 26 ㉔ 赤い帽子の女
- 27 ㉕ フルートを持つ女
- 28 ㉖ 婦人と召使い
- 29 ㉗ 少女
- 30 ㉘ 天文学者
- 31 ㉙ 地理学者
- 32 ㉚ レースを編む女
- 33 ㉛ 恋文
- 34 ㉜ ヴァージナルの前に座る若い女
- 35 ㉝ ヴァージナルの前に立つ女
- 36 ㉞手紙を書く婦人と召使い
- 37 ㉟ ギターを弾く女
- 38 ㊱ 信仰の寓意
- 39 ㊲ ヴァージナルの前に座る女
フェルメールの作品数
フェルメールが生涯で手がけた作品のうち、現存するのは全部で37作品と言われています。
ただし、37作品中「聖女プラクセデス」「フルートを持つ女」の2作品は、他に比べて真作であるという根拠が乏しいため、書籍や解説書などによってはこの2作を抜いて、全35作品としている場合も多いです。
また、現在は真作とされている「ディアナとニンフたち」や「赤い帽子の女」なども、真作でないと主張する研究者が多数おり、将来的にフェルメール作品から外れる可能性もゼロではありません。フェルメールのみならず、画家の作品数に関しては、新たな資料の発見や、最新鑑定技術がもたらす結果により変動します。
フェルメール全37作品一覧
フェルメールの各作品については、次項より詳しく解説していきますが、まずは一覧表でフェルメール全37作品のタイトルや製作年などをご覧ください。制作年の若い順に並んでおります。
以下、画像をクリック(タップ)すると拡大し、作名をクリックすると同ページ内の作品解説部分に移動します。
作品名 | 制作年 | サイズ | 種類 | 所蔵 |
---|---|---|---|---|
ディアナとニンフたち | 1653-54年頃 | 98cm x 105cm | カンヴァス、油彩 | マウリッツハイス美術館 |
マルタとマリア家のキリスト | 1654-56年頃 | 158.5cm × 141.5cm | カンヴァス、油彩 | スコットランド国立美術館 |
聖女プラクセデス | 1655年頃 | 102cm x 83cm | カンヴァス、油彩 | 個人(国立西洋美術館 展示) |
取り持ち女 | 1656年 | 143cm x 130cm | カンヴァス、油彩 | アルテ・マイスター絵画館 |
眠る女 | 1657年頃 | 88cm x 76cm | カンヴァス、油彩 | メトロポリタン美術館 |
小路 | 1658-59年頃 | 54cm x 44cm | カンヴァス、油彩 | アムステルダム国立美術館 |
窓辺で手紙を読む女 | 1658-59年頃 | 83cm × 64.5cm | カンヴァス、油彩 | アルテ・マイスター絵画館 |
士官と笑う女 | 1658-59年頃 | 50cm x 46cm | カンヴァス、油彩 | フリック・コレクション |
牛乳を注ぐ女 | 1660年頃 | 46cm x 41cm | カンヴァス、油彩 | アムステルダム国立美術館 |
紳士とワインを飲む女 | 1658-60年頃 | 66cm x 78cm | カンヴァス、油彩 | ベルリン国立博物館 |
ワイングラスを持つ娘 | 1659-60年頃 | 77.5cm × 66.7cm | カンヴァス、油彩 | アントン・ウルリッヒ公爵美術館 |
中断された音楽の稽古 | 1660-61年頃 | 39.4cm × 44.5cm | カンヴァス、油彩 | フリック・コレクション |
デルフトの眺望 | 1660-61年頃 | 98cm x 118cm | カンヴァス、油彩 | マウリッツハイス美術館 |
リュートを調弦する女 | 1662-63年頃 | 51.4cm × 45.7cm | カンヴァス、油彩 | メトロポリタン美術館 |
天秤を持つ女 | 1662-63年頃 | 42cm x 38cm | カンヴァス、油彩 | ワシントン・ナショナル・ギャラリー |
音楽の稽古 | 1662年頃 | 74cm × 64.5cm | カンヴァス、油彩 | バッキンガム宮殿 |
青衣の女 | 1662-65年頃 | 46.6cm × 39.1cm | カンヴァス、油彩 | アムステルダム国立美術館 |
水差しを持つ女 | 1664-65年頃 | 45.7cm × 40.6cm | カンヴァス、油彩 | メトロポリタン美術館 |
真珠の首飾りの女 | 1662-65年頃 | 55cm x 45cm | カンヴァス、油彩 | ベルリン国立美術館 |
真珠の耳飾りの少女 | 1665年頃 | 44cm x 39cm | カンヴァス、油彩 | マウリッツハイス美術館 |
手紙を書く女 | 1665年頃 | 45cm x 40cm | カンヴァス、油彩 | ワシントン・ナショナルギャラリー |
絵画芸術 | 1665-66年頃 | 130cm × 110cm | カンヴァス、油彩 | 美術史美術館 |
合奏 | 1665-66年頃 | 72.5cm × 64.7cm | カンヴァス、油彩 | イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館 |
赤い帽子の女 | 1665-66年頃 | 23.2cm × 18.1cm | 板、油彩 | ワシントン・ナショナルギャラリー |
フルートを持つ女 | 1665-70年頃 | 20cm x 17.8cm | 板、油彩 | ワシントン・ナショナルギャラリー |
婦人と召使い | 1667-68年頃 | 90cm x 79cm | カンヴァス、油彩 | フリック・コレクション |
少女 | 1668-69年頃 | 44cm x 40cm | カンヴァス、油彩 | メトロポリタン美術館 |
天文学者 | 1668年 | 51cm × 45cm | カンヴァス、油彩 | ルーブル美術館 |
地理学者 | 1669年 | 53cm x 47cm | カンヴァス、油彩 | シュテーデル美術館 |
レースを編む女 | 1669-70年頃 | 24cm x 21cm | カンヴァス、油彩 | ルーブル美術館 |
恋文 | 1669-70年頃 | 44cm × 38cm | カンヴァス、油彩 | アムステルダム国立美術館 |
ヴァージナルの前に座る若い女 | 1670年頃 | 25.5 × 20.1cm | カンヴァス、油彩 | 個人 |
ヴァージナルの前に立つ女 | 1669-71年頃 | 52 x 45cm | カンヴァス、油彩 | ロンドンナショナルギャラリー |
手紙を書く婦人と召使い | 1670-71年頃 | 72cm x 58cm | カンヴァス、油彩 | アイルランド国立美術館 |
ギターを弾く女 | 1673-74年頃 | 53cm × 46.3cm | カンヴァス、油彩 | ケンウッド・ハウス |
信仰の寓意 | 1673-75年頃 | 114.3cm × 88.9cm | カンヴァス、油彩 | メトロポリタン美術館 |
ヴァージナルの前に座る女 | 1675年頃 | 52cm x 46cm | カンヴァス、油彩 | ロンドン・ナショナルギャラリー |
フェールメールが絵画内に制作年を記している作品はわずかです。そのため、絵画の製作年表記は、解説書やネット記事ごとに若干異なります。
① ディアナとニンフたち
{{PD-US}} - image source by WIKIMEDIA
フェルメールで唯一の神話モチーフ作品「ディアナとニンフたち」は、かつて同時代の画家「ニコラース・マース」の作品と考えられていました。
現在は「マリアとマルタの家のキリスト」との類似点や署名などから判断した結果、本絵画はフェルメール作品であると結論付けられています。ただし、この結論に異を唱える専門家も多く、将来的に覆る可能性はゼロではありません。
ローマ神話を題材にした本作中央には、黄色い衣服を着た月と狩りの女神「ディアナ」の姿が、ニンフ(精霊)達と共に描かれています。ニンフの1人はディアナが足を洗うのを手伝っています。
20世紀後半に行なわれた修復により、画面に向かって右上に青空が加筆されていた事が判明しました。現在その部分は塗りつぶされ、本来の姿を取り戻しています。これにより、狩りの合間に休息する一行と言う作中の雰囲気が、闇の中で沈んでいる一行と言う風に一変しました。
② マルタとマリア家のキリスト
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フェルメールが最初期に手掛けた「マルタとマリア家のキリスト」は、縦158.5cm × 横141.5cmの大きさがあり、彼のキャリアでは最大の作品となります。
本作はフェルメールでは希少な新約聖書の登場人物がモチーフになっており、向かって右側には腰掛ける「イエス・キリスト」、中央に「マルタ」、左側にはしゃがんで肘をつく「マリア」が描かれています。
給仕に忙しい姉のマルタは、家事をしない妹マリアに対する不満を口にしますが、イエスに「マリアは良い選択をしただけ」と諫(なだ)められています。
③ 聖女プラクセデス
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古代ローマ時代のキリスト教の聖女を描いた宗教画「聖女プラクセデス」は、17世紀のイタリア画家「フェリーチェ・フィケレッリ」の作品をそっくりそのまま模写したものです。
作中では、聖女がキリスト教の殉教者を看取る姿が描かれており、スポンジを絞って水差しに殉教者の血を流し込んでいます。
本作は、30年ほど前から、画中の署名や書き加えられた十字架などを根拠に、フェルメール作品の可能性が浮上してきました。しかし、確実にフェルメール作品であると立証できる根拠に乏しく、全作品中で最も疑わしいフェルメール作品となっています。
2014年にロンドンで行われたオークションで日本人に落札された本作は、国立西洋美術館の常設展示室にて現在は一般公開されています。
④ 取り持ち女
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「取り持ち女」は、それまで歴史画や物語画をメインに描いていたフェルメールの転機となった作品で、これ以降は風俗画が中心となっていきました。
フェルメールらしい色彩や均衡の取れた構図などもこの作品を機に現れる様になり、正に彼の画家としての方向性を決定付けた作品と言えます。
作中では、赤い服の男性が娼婦をお金で買い取る様子が描かれています。男性の背後で様子を伺いながら取引を媒介するのが作名でもある「取り持ち女」です。向かって一番左側の男性は、フェルメールの自画像だと言う説もありますが、結論は出ていません。
⑤ 眠る女
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フェルメールが「取り持ち女」に次いで描いた風俗画で、後に見られる洗練された光の表現やバランスの良い構図などは、まだ本作では見る事ができません。
作中では、女性が居眠りする姿が描かれていますが、机上のデキャンターから、ワインを飲み過ぎて泥酔したとも解釈できます。
本作は後年のX線検査により、ドアの向こうに、男性とその男性に視線を誘導する役割の犬が描かれていた事がわかっています。これらは作者自身により制作過程でぬり潰されました。
もし、これらのモチーフが残っていれば、作中の女性は男性に捨てられて泥酔したと解釈でき、本作はストーリー制重視の作品となっていました。
しかし、最終的にこのモチーフを排して空間に広がりを与えた事からも、フェルメールが本作で何を重視すべきか、試行錯誤していた様子が伺えます。
⑥ 小路
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フェルメールで唯一の縦長の風景画である本作は、彼の仕事場から見える実家「メーヘレン」を描いたものだと考えられています。ただし、描かれた風景に関しては諸説語られており結論は出ていません。
作中には三人の女性が小さく描かれており、中央の奥に見えるのは如何にもフェルメール風な成人女性、背を向けているのは小さい女の子、もう1人は恐らく編み物をしているであろう老齢の女性です。
⑦ 窓辺で手紙を読む女
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本作は現在のフェルメールの代名詞である、窓から光が差し込む表現、室内で手紙を読む女性の姿など、自らのスタイルを確立したと言われる初期の傑作です。
作中では、柔らかな光に包まれた女性が、部屋の隅で手紙を読みふける姿が描かれており、鑑賞者がカーテン越しに女性を覗き見る様なアングルになっています。
1979年に行われたX線検査で、白い壁面に元々はキューピッドが描かれていた事が判明しました。長年この部分はフェルメール自身によって塗りつぶされていたと考えられていましたが、彼の死後に何者かに塗りつぶされていた事が2019年に判明しました。
その後、大規模な修復プロジェクトによって画中画のキューピッドが復活し、現在は所蔵元のドイツ ドレスデンのアルテ・マイスター絵画館で公開されています。
⑧ 士官と笑う女
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作中では、俯(うつむ)きながら夢中で手紙を書く女主人と、呆れた様に窓の外に視線を向けるメイドの姿が対照的に描かれています。
フェルメールの代名詞とも言える、窓際に人物を配した構図作品の中でも、「窓辺で手紙を読む女」と共に、最初期に製作されたのが、この「士官と笑う女」です。
本作は、後ろ向きの士官男性が、画面の大半を占めると言う大胆な遠近法構図で、実際の空間以上の奥行きを作品に与えています。
作中の女性はワイングラスを手に屈託のない笑顔を見せていますが、士官は対照的に重苦しい雰囲気を醸し出しています。
17世紀のオランダでは、男女が向かい合って談笑する姿には、絶えず酒場や娼家のイメージがつきまとっていました。本作も女性の左手が上向きでテーブルにあり、金銭を要求している様にも見えますが、単に談笑している風にも見えます。フェルメールは、敢えてどちらとも取れる様に本作を描いたと考えられます。
⑨ 牛乳を注ぐ女
2018年から2019年にかけて東京と大阪で開催されたフェルメール展の目玉作品でもあった本作「牛乳を注ぐ女」は、フェルメールの中でも、最高傑作の呼び声が高い作品の一つです。
作中では、柔らかな光が入る穏やかな雰囲気の部屋で、若い女性がゆっくりと牛乳を鉢に注ぐ姿が描かれています。まるでそこに存在するかの様に描かれたパンや籠のリアルな質感、がっちりとした女性の存在感、フェルメールブルーと呼ばれる青と黄色の美しいコントラストなど、全てが印象的です。
後年のX線調査により、フェルメールが背後の白い壁に、絵画か地図を描こうとしていた痕跡が発見されました。
⑩ 紳士とワインを飲む女(ワイングラス)
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女性が口にしているワイングラスは空で、隣の男性がつぎ足そうと待っています。作中に描かれた音楽関連の小道具「リュード」や「楽譜」は恋愛を示すモチーフである事から、男女が恋仲である事を示唆しています。
判別しにくいですが、窓のステンドグラスに描かれている女性は、節制の象徴である「馬の手綱」や、正しい生活を意味する「直角定規」を手にしており、「節制を保ち色恋沙汰を戒める」擬人像として描かれています。
本作は風景画を除けば、フェルメールで数少ない横長作品の一つです。
⑪ ワイングラスを持つ娘
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作中では、鮮やかな赤い衣服を着た女性と紳士が談笑する場面が描かれています。奥にいるもう1人の紳士は肘をついて不機嫌そうな表情を浮かべています。
登場人物3人の関係性や所作の意味は明示されておらず、この謎めいた部分が本作に不思議な魅力を与えています。フェルメールの中でも、非常に想像力を掻き立てられる作品の一つです。
本絵画「ワイングラスを持つ娘」は、これより前に描かれた横長の作品「紳士とワインを飲む女」と共通部分も多く、構図も非常に似ていますが、縦長で描かれた本作の方がより洗練された印象を受けます。
窓のステンドグラスには、節制を意味する手綱を持った女性が描かれており、まるでフェルメールが三人の男女に節度をわきまえた恋愛をせよと警告してるかの様です。
⑫ 中断された音楽の稽古(稽古の中断)
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作中の男女はリュートのレッスンを中断し、女性は何かに気がついた様に、こちら側に視線を向けています。
音楽を教え、ファッショナブルな衣装に身を包む上流階級の男性は、女性の様子を気にかける事もなく、楽譜を見つめています。
男性の背後に飾られた絵画(画中画)は、1907年に行われた修復で発見された部分で、愛を象徴する「キューピッド」がぼんやりと描かれています。また、17世紀のヨーロッパにおける音楽は、異性と交流できる数少ない活動の一つとして、男女の恋愛を表す人気のテーマでした。
以上のモチーフやテーマから、作中の男女が恋仲である事を窺わせています。本作はフェルメール作品ではないとする専門家も少数いますが、窓から降り注ぐ美しい光の表現などから、真作で間違いないというのが多数派の意見です。
参考までに、向かって左上の側壁に掛かる鳥籠は後世に加筆されたものです。
⑬ デルフトの眺望
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デルフトの眺望は、室内画が中心であるフェルメールが2作だけ描いた風景画の一つです。
本作は、ゴッホをはじめ多くの画家たちに強い影響を与えており、数あるオランダ風景画の中でも傑作に数えられています。描かれている景色は、作者自身の故郷である オランダ南西部の小都市「デルフト」です。
⑭ リュートを調弦する女
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作中では、楽器のリュートを調弦する女性が、まるで誰かを想う様な表情で、窓の外に視線を向けています。女性が身につけている黄色いマントは、フェルメールの私物だったものです。
手前に引かれた椅子、床に置かれヴィオラと楽譜、壁に掛けられた航海地図などは、航海に出た恋人の存在を暗示していると言われています。
本来、本作はフェルメールの中でも傑作の部類に入るべき作品ですが、テーブルから手前の椅子までは、正式な様式判別ができないほど絵の具が摩耗してしまっています。作品の構図は「真珠の首飾りの女」や「天秤を持つ女」と類似点が多く、恐らくそれらと同時期の作品であると推定されています。
⑮ 天秤を持つ女
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一見すると、何気ない室内で、女性が何かを手にしているだけの本作ですが、女性の手には天秤が、背後には最後の審判の絵画(画中画)が掛けられており、明らかに抽象的な概念を示す寓意画である事が分かります。
作中の女性の頭部は、最後の審判の絵画内における大天使ミカエルの位置にあり、まるでこの女性が、人間の魂が地獄行きか天国行きかを量っている様に表現されています。
テーブルの上には、真珠や金貨が散りばめられていますが、天秤の上には何も置かれておらず、天秤で量っているのは、人の魂であると言わんばかりの表現です。かつては「金を量る女」と呼ばれていた事もありましたが、近年の研究で天秤上には何も乗っていない事が明らかになっています。
本作は、フェルメール作品の中でも傑作に分類され、1696年に行われた競売では、かなりの金額(155ギルダー)で売却されました。
⑯ 音楽の稽古
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鍵盤楽器のヴァージナルを演奏する女性と、その演奏に聴き入る男性を描いた作品。
本来、楽器を見ているはずの女性の視線は、壁の鏡を通して男性を見ているかの様です。
極めて正解な幾何学的遠近法で描かれた本作は、鑑賞者の視線を女性の左膝あたりへと誘導しています。
向かって右側にわずかに見える画中画は、フェルメールの義理の母が、実際に所有していた絵画「キモンとペロ」だと考えられています。フェルメールは、本作以外にも、義理の母のコレクションを作中にしばし描いています。
本作は、暖かな光の表現や、バランスの良い構図など、フェルメールの中でも、非常に完成度の高い作品としてと評価されています。
⑰ 青衣の女
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フェルメールが活躍した17世紀のオランダは郵便制度が整った時代で、フェルメールは全作品中の6作品で手紙を題材にしています。
この絵画を際立たせているのが、フェルメール・ブルーと呼ばれる鮮やかな青色で、2010年〜2011年に行われた修復でニスを取り除き、その輝きを取り戻しました。
フェルメールブルーを生み出す顔料は、現在のアフガニスタンで産出される「ラピスラズリ」と言う鉱物です。ラピスラズリは17世紀のヨーロッパでは大変高価なもので、この顔料をふんだんに使用していたフェルメールは、作品を描く度に借金が増えていったそうです。
本作の解釈に関しては、諸説語られていますが、壁の地図などのモチーフから、旅行中の夫から届いた手紙を妻が読んでいると言うのが主説となっています。
参考までに、壁に掛けられたネーデルラントの地図は、「兵士と笑う女」や「恋文」で描かれたものと同一です。
⑱ 水差しを持つ女
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絵画中央の女性は右手で窓を開け、もう一方の手で水差しを持っています。
聖母マリアの純潔を象徴する水差しや水盤が、柔らかな光や滑らかな筆使いと相まって、作品全体に清らかな印象を与えています。光の階調表現が見事な白い頭巾も、聖母マリアを象徴する定番的モチーフの一つです。
本作「水差しを持つ女」の女性は、フェールメール初期作品の「取り持ち女」で描いた娼婦と同じだと思われますが、後者が世俗社会の「俗」を表す作品なのに対して、本作は「聖」を表す作品と言えます。
⑲ 真珠の首飾りの女
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作中では、真珠の首飾りを結ぼうとリボンに手をやり、身支度を整える女性の姿が描かれています。真珠は当時のオランダでは流行りの装飾品でした。
フェルメールは本作を含め全部で6作品に、黄色いマントを羽織った女性を描いていますが、このマントは実際にフェルメールが所有していた物です。
ステンドグラスの窓からは光が差し込み、小さな鏡を見つめる女性の表情は、自らの姿に見惚れているかの様です。正面のテーブル上には、盥(タライ)や白粉のパフなどのモチーフが描かれています。
⑳ 真珠の耳飾りの少女
架空の少女を描いた本作「真珠の耳飾りの少女」は、日本で最も有名なフェルメール作品と言っても過言ではありません。かすかな笑みを浮かべる少女は、モナリザの微笑を連想させる事から、オランダのモナリザとも呼ばれます。
一際鮮やかな黄色のジャケットと青色のターバンが印象的ですが、作名でもある小さな真珠の耳飾りも、それらに負けない存在感を放っています。
黒い背景に光を浴びて、こちらを振り向く少女は、かつてフェルメールの娘マーリアだと言う説もありましたが、架空の少女を描いた作品であると言う見解で現在は概ね一致しております。
本作は2012年6月に東京と神戸で開催された「マウリッツハイス美術館展」にも出展され、80万人近くの来場者数を記録しました。
㉑ 手紙を書く女
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暗い部屋で机に向かって手紙を書く女性が、ふとこちらを向いて微笑む瞬間を切り取った作品。フェルメールは手紙書く女性を多く描いていますが、視線をこちらに向けているのは本作だけで、柔らかな女性の表情は多くのコレクターを魅力してきました。
壁に掛けられた絵画(画中画)には、恋愛を象徴するモチーフとして楽器が描かれています。作中には、黄色いマント、手紙、真珠、ライオンの椅子など、作者が実際に所有していたとされる多くのモチーフが描かれています。
本作はアメリカの富豪ジョン・ピアポント・モルガンをはじめ、オランダやベルギーのコレクターの所有を経て、最終的にワシントン・ナショナル・ギャラリーに寄贈されました。
㉒ 絵画芸術
大きさ130cm × 110cmある本作「絵画芸術」は、フェルメールの中でもかなり大規模な油彩画です。作中では、アトリエで黒い衣服を着た男性画家が、光を浴びて目を閉じる青い衣服の女性を描いています。
青い衣服の女性は、月桂樹を被る歴史の女神「クリオ」だと言われており、歴史の女神の象徴であるラッパと本を手にしています。
画面に向かって右手側の大部分を占めるのは、独立前の「ネーデルランド17州」の地図で、シャンデリアにはハプスブルク家の象徴である双頭のワシが施されています。
㉓ 合奏
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作中では、三人の男女のアンサンブルの風景が描かれており、向かって左から、チェンバロを引く女性、リュートを弾く男性、歌を歌う女性となっています。画面手前の暗がりに置かれているのは、楽器のチェンバロです。
17世紀のオランダでは、音楽を通じて恋愛相手を見つける事も多く、音楽や楽器は、男女の恋愛を象徴する代表的なテーマの一つでした。本作も、三人が何らかな形で恋愛関係にある事を示唆していると考えられます。
背景の壁には2点の絵画(画中画)が掛けられており、向かって左側は風景画ですが、反対側の絵画は、フェルメールが別作品の背景にも描いている「取り持ち女」です。
参考までに、フェルメールも「取り持ち女」と言う作品を描いていますが、それとは異なり、これはフェルメールの義母マリア・ティンスが所有していた別の画家の絵画(取り持ち女)を画中画として採用しています。
本作「合奏」は、1990年3月に美術館に押し入った2人組の強盗により盗難され、現在は所在が不明となっています。所蔵で記しているのは、盗難前の美術館名です。
㉔ 赤い帽子の女
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赤い帽子の女は、カンヴァス中心のフェルメールが板パネルに描いた珍しい作品で、彼の中でも2番目に小さい絵画となります。一際目を引く羽毛の帽子のリアルな質感は、赤い絵の具をラフなタッチで何度も塗り重ねる事で実現しています。
女性の顔は強い逆光で白くぼやけてしまった(ハレーションを起こしてしまった)様に描かれていますが、敢えてこの様な表現にする事で、作品に劇的な視聴効果を与えています。
本作は、女性の顔の系統が他のフェルメール作品とは大きく異なる点や、この絵画だけに存在する特徴が多くある事から、真作ではないと主張する専門家も多く存在しています。
㉕ フルートを持つ女
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大きさ縦20cm × 17.8cmの「フルートを持つ女」 は、フェルメールの絵画では最小となり、その次に小さい「赤い帽子の娘」と本作だけが、カンヴァスではなく板のパネルに描かれています。
この2作は共に、獅子飾りの椅子が描かれているなどの共通点から、対で描かれたと考えられています。ただし、後年にオリジナルの上に大幅な加筆や修正が加えられた可能性が本作にはあるほか、構図などの不安定さから、真作が疑わしフェルメール作品の一つとなっています。
㉖ 婦人と召使い
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手紙を題材にしたフェルメール6作品の中で最も大型の本作は、女性の頭部や両手などが未完成となっています。作中では、婦人が手紙を書いている最中に、召使いが別の手紙を差し出す場面が描かれています。
明暗のコントラストが際立つ黒背景をバックに、婦人は笑みを浮かべる訳でもなく、曇った表情で顎に右手を当てています。作中の人物の行動や表情が様々なストーリーを連想させる作品です。
㉗ 少女
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トルコ風衣装を着た少女を描く本作は、「真珠の首飾りの女」と共にフェルメールの数少ないトローニーの一つで、色合いこそ異なりますが、全体的な構図などがよく似ています。
トローニーは、オランダ語で「頭部の習作」を意味する言葉で、特定できない人物の胸から上を描いた作品(習作)の事です。一方、これとは逆に特定の人物を描いた作品を肖像画と呼びます。
作中の女性はかなり個性的な顔立ちをしている事から、特定の誰かを描いた肖像画であると主張する研究者もいます。また、フェルメールの妻や娘を描いたと言う説もありましたが、どの説も、根拠となる明確な証拠は示されていません。
以上から本作はトローニー(不特定の人物の上半身像)として描いた作品とするのが自然です。
㉘ 天文学者
本作では、書斎の窓から光が差し込む中で、「天文学者」が天球儀に手を置き、研究に没頭する姿が描かれています。向かって右側の壁面には、科学を表すシンボルとして、旧約聖書の一場面「モーゼの発見」を描いた絵画が掛けられています。
「天文学者」は、医者と並んで当時の花形職業の一つで、17世紀のオランダ絵画では非常に人気のあるテーマでした。
作中のモデルは17世紀のオランダ人科学者で、「微生物学の父」とも称せられる「アントニ・ファン・レーウェンフック」だと言われています。学者が身につけているのは、高価な日本の着物で、当時は富裕層のシンボルの一つでした。
㉙ 地理学者
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「地理学者」は、同じくフェルメール作品の「天文学者」と同様に、オランダ出身の偉大な科学者「アントニ・ファン・レーウェンフック」をモデルにしたと言われている作品です。フェルメールとレーウェンフックは同時代の人間でお互いに交流もありました。
作中で棚の上に描かれている地球儀は、地図制作者で彫刻家のヨドクス・ホンディウスが実際に17世紀に制作したものがモチーフになっています。
壁に掛けられた地図やテーブルの海洋地図などから、この時代におけるオランダの地理や大陸発見への関心の高さが伺えます。全フェルメール作品の中では、本作に「天文学者」と「取り持ち女」を加えた3作だけが、作内に制作年が記されたレアパターンとなっています。
㉚ レースを編む女
若い女性がレース編みに熱中する姿を描いた本作は、縦23.9cm × 横20.5cmと、フェルメール作品の中でも最小クラスの作品です。17世紀はレース製品が盛んであったため、オランダ出身の多くの画家が、絵画の題材としてレースの制作風景をテーマにしていました。
向かって右側から光が差し込む構図もフェルメール絵画では珍しいパターンで、左手側に描かれた、赤と白の刺繍糸が絵画全体のアクセントになっています。
㉛ 恋文
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フェルメールのキャリア円熟期に描いた作品で、リュートを手にした女性が困った様な表情で使用人を見上げています。使用人は、婦人に優しく助言している様にも、やや嘲笑気味に何かを伝えている様にも見えます。
婦人は、恋を象徴するリュートと恋文を手にしている事から、恋愛に夢中である事が窺えます。また、壁に掛けられた絵画(画中画)には、海に浮かぶ船が描かれており、婦人の恋は、船の航海の様に困難が待ち受けている事を連想させます。
鑑賞者は両側の黒い壁の間から、明るい奥の部屋で会話する2人の様子を覗き見る様に描かれています。
㉜ ヴァージナルの前に座る若い女
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フェルメールでヴァージナルを主題にした絵画は全部で3作あります。そのうちの一つである本作は、1993年から10年以上かけた鑑定により、ようやく真作と認定されたものです。
背景の壁は白く見えますが、ラピスラズリがふんだんに使用されています。この部分も、本作がフェルメール作品であると言う大きな決め手の一つとなりました。
2004年にロンドンで行なわれた競売では、ラスベガス在住のコレクターにより、1620ポンド(約32億円)で本作は落札され、現存するフェルメール作品で2作目の個人所蔵となりました。本作は個人所蔵となって以降、一般公開された事はありません。
㉝ ヴァージナルの前に立つ女
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本作は、充分な光に満たされた室内で、女性がヴァージナルを弾くのを中断し、こちら側に視線を向ける姿が描かれています。ヴァージナルとは楽器で、ピアノの前身となるチェンバロの一種です。蓋や土台に絵や彫刻があしらわれているのが特徴です。
背後の壁にはフェルメールではお馴染みの「キューピッド」の画中画が掛けられており、弓の位置がちょうど女性の頭を射抜く様に描かれています。床と壁下部の接触部分にも、小さなキューピッドが複数描かれており、作中の女性が誰かに恋心を抱いている事が示されています。更に手前に描かれた青い椅子は、女性がその想い人を待っている事を示唆しています。
本作は高い評価を受ける一方で、ヴァージナルや黒い額縁のくっきりした輪郭線の不自然さが、しばしネガティブな指摘を受けています。
㉞手紙を書く婦人と召使い
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作中では、俯(うつむ)きながら夢中で手紙を書く女主人と、呆れた様に窓の外に視線を向けるメイドの姿が対照的に描かれています。
前方の床には、ぐちゃぐちゃの手紙が投げ捨てられており「手紙を書き損じた」もしくは「受け取った手紙を投げ捨てた」などの場面が想像できます。
背後の絵画(画中画)は旧約聖書の物語「モーゼの発見」で、これは物事が終息に向かう事を示唆するモチーフだとされています。本作は、フェルメール後期の作品だけあって、女主人とメイドを照らす柔らかな光の表現が、これ以上になく洗練されています。
この絵画は二度の盗難に遭っていますが、結局買い手がつかないまま犯人は逮捕され、現在のアイルランド国立美術館に寄贈されました。
㉟ ギターを弾く女
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本作はフェルメールの死後、経済的に困窮した妻カタリーナが、パンの代金代わりにパン屋のファン・バイテンに手渡したとされる晩年の作品です。
フェルメールとしては珍しく、人物を左手側に、窓を右手側に配置しています。作中の女性は左側を向き、リラックスした表情で誰かに話しかけている様です。男女の愛を象徴する楽器が、画中には見えない男性の存在を示唆しています。
本作では、フェルメールらしい人物や背景の詳細な描写は失われ、光の表現もどこか機械的になっています。残念ながら、決して完成度が高いとは言えない作品です。
㊱ 信仰の寓意
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白と青が美しい金縁のサテンドレスを着た女性が、右手を心臓に添えて、青いリボンで吊るされたガラス球を見上げています。
この女性は、キリスト信仰を擬人化した存在として描かれており、地球儀を踏みつける姿は、その時代に全世界で影響力のあったカトリック宗教の支配を表しています。
女性のそばには、聖杯や十字架、更にミサでの祈りが記された典礼書が置かれ、明らかにキリスト教の教義を表しています。床に目を向けると、悪魔の象徴である邪悪の蛇が、キリストを象徴する「教会の礎石」に押しつぶされています。
フェルメール作品の中では、本作と「絵画芸術」だけが寓意画(ヴァニタス)に分類され、この2作は構図やモチーフに多くの共通点を持っています。
㊲ ヴァージナルの前に座る女
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この「ヴァージナルの前に座る女」は、先に紹介した「ヴァージナルの前に立つ女」と、しばし比較されますが、本作の方が遥かに劣る出来栄えとなっています。 また、作名もそっくりな二作は、以前まで対作品と考えられていましたが、様式やクオリティの違いなどから、現在は否定されています。
フェルメール最後の作品となった本作では、光の美しい表現などは息を潜め、随所に細部の描写の簡略化が見られます。壁に掛けられた「取り持ち女」の絵画(画中画)も、彼の作品にしばし登場しますが、光の表現もなく、非常に単純に描かれています。
本作は、時代や流行の変化により、フェルメールがこれまでのスタイルに疑問を感じ、新たなスタイルを模索していた事が伺えるスランプ作品と言えます。恐らく健康面の不調も影響していたと考えられます。
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