ウィーン美術史美術館 見どころと展示作品を徹底解説
()
ウィーン本記事ではウィーン美術史美術館の見どころと絵画などの展示作品について詳しく解説致します。

1891年にウィーンに開設された「美術史美術館」は、ハプスブルク家が600年に渡り収集した莫大なコレクションが展示されています。かつて、コレクションの収集には、女帝マリア・テレジアの夫「フランツ1世」が、海外へ探索員を派遣したほどの力の入れようでした。
そのため、ハプスブルク帝国領土で生まれた絵画コレクションだけでなく、オーストリア国外の名作も多数展示されています。
以下より、クリムトの壁画や絵画の名作はもちろん、美術史美術館の見どころを、5章に分けてご紹介していきます。
見どころ① メイン階段ホールの装飾とクリムトの壁画
入口から美術史美術館の建物に入って、最初の見どころが、「金の装飾」や「大理石の彫像」「天井画のフレスコ画」などで飾られた「大階段ホール」です。

大階段の正面を飾る彫像は、イタリア彫刻家アントニオ・カノーヴァ作「ケンタウロスと闘うテセウス」の大理石像(画像下)です。この像は、ウィーンの国民庭園にある「テセウスの神殿」に置かれていたのを運び込んだものです。

階段を少し登り、視線を天井に向けると、ハンガリー出身の画家ミハーイ・ムンカーチ作のフレスコ画「ルネサンスの賛歌」が飾られています。

豪華な装飾を堪能しながら、大階段を登って行くと、1階の絵画コレクションのフロアまで出る事ができます。

柱の間や上部の半円部分(ルネット)には、美しい壁画が描かれています。

知らない方はスルーしてしまいがちですが、柱の間にはグスタフ・クリムト作の壁画がずらりと並んでいます。


左から「タナグラの乙女」「女神パラス・アテナ」「ミイラ・エジプト」「青年・フィレンツェ」です。40枚のうち、クリムトは11枚の壁画を手がけています。是非、柱の間の壁画をぐるりと見渡して見てください。

大階段ホールの内装や美術品を存分に堪能したら、いよいよ美術史美術館のメインホールである1Fの「絵画コレクション」から見学して行きます。
見どころ② 1階の絵画ギャラリー
1階の絵画ギャラリーには、「ブリューゲル」や「フェルメール」「ラファエロ」「ルーベンス」「ティッツィアーノ」「カラヴァッジォ」など、世界中の名だたる画家の名作が一堂に会しています。特にブリューゲルの作品展示数に関しては、世界の美術館の中でも最大規模を誇ります。
以下より、見るべき絵画40作品を厳選してご紹介致します。
絵画芸術

この「絵画芸術」は、寡作の画家として知られるフェルメールの希少な作品の一つです。作中では、アトリエで黒い衣服を着た画家が、青い衣服の女性を描く姿が描かれています。右上の大部分を占めるのは、独立前の「ネーデルランド17州」の地図です。この作品の中心である青い衣服の女性は、月桂樹を被る歴史の女神「クリオ」だと言われており、歴史の女神の象徴であるラッパと本を手にしています。

草原の聖母

「草原の聖母」は、ラファエロが23歳の頃の作品です。作中では、「洗礼者ヨハネ」から十字架を受け取る「キリスト」の姿と、それを慈愛に満ちた表情で見つめる聖母マリアの姿が描かれています。作品の構図や柔らかな光の表現法などは、先輩画家のダ・ヴィンチやミケランジェロに強い影響を受けたと言われています。また、聖母マリアの頭部を頂点とした三角構図は、ラファエロが全く同時期に描いた「ヒワの聖母(画像下)」にも見られる特徴です。現在、ヒワの聖母はフィレンツェのウフィツィ美術館に展示されています。

バベルの塔

美術史美術館の中で最も有名な作品の一つがこの「バベルの塔」です。作者のブリューゲルは、この「バベルの塔」を通して、自らを課題評価する人間の傲慢と愚かさを表現しています。

旧約聖書のバベル塔では、人類が天にも届く高さの塔を建てようとしたため、それに激怒した神が「言語の混乱」を起こしたとされています。これにより人類は意思疎通が困難となりました。作中で描かれている塔の後ろの風景は、フランダースの犬の舞台にもなったベルギーの都市「アントワープ」です。

また、バベルの塔は、ローマのコロッセオがモデルとなっています。

バベルの塔の各入口部分をよく見てみると、塔の建設作業を行う人の姿が非常に細かく描かれているのが分かります。

暗い日(早春)

ブリューゲルは1年を12ヶ月ではなく、伝統に従って6つの季節に区切って絵画を描きました。そのうちの3作が美術史美術館に所蔵されており、この「暗い日」は6つの中で一番目の「早春」を表す作品だとされています。残念ながらこれに続く春を示す作品は紛失のため、もう目にする事はできません。
群の帰還(秋)

ブリューゲルの6つの季節を描いた作品の中で、4番目の季節「秋」にあたるのがこの「群れの帰還」です。この一つ前の「晩夏」を示す絵画はニューヨークの「メトロポリタン美術館」に、2つ前の初夏を示す「千草の収穫」はプラハ近郊の「ネラホゼヴェス城」に所蔵されています。
雪中の狩人(冬)

ブリューゲルの6つの季節を示す絵画のトリを飾るのがこの「冬」を示す「雪中の狩人」です。ブリューゲルは1作目の「暗い日(早春)」からこの「雪中の狩人(冬)」までを全て同じ年に描きました。作中では、猟犬と共に帰路を急ぐ狩人の姿が描かれ、その右奥では、凍った池の上でスケートを楽しむ人々の姿が描かれています。
農民の婚礼

作中では、納屋を舞台に婚礼の祝いに集まった農民の姿が描かれています。緑色の壁の前に座っているのが「花嫁」ですが、存在感が皆無です。花婿は結婚式初夜まで花嫁とは一緒になる事ができないため、作中には描かれていません。ブリューゲルはこういった農村を舞台とした作品を多く残しています。
ゴルゴタの丘への行進

バベル塔の翌年にブリューゲルが手掛けた作品。絵画の前面から奥側まで詳細に人々の姿が描かれています。絵画の中央には非常に小さくですが、十字架を背負ったイエスキリストの姿が描かれています。この絵画が、ウォーリーを探せの原型になったと言う話は一切ありません。
農民の踊り

「農民の踊り」は、教会の開基祭を祝うための縁日で、農民が浮かれて踊る姿を描いた作品です。
子供の遊戯

こちらもブリューゲルの作品で、250人以上の子供が80種類以上の遊びをする姿が描かれています。
木製容器の花

この作品の作者である「ヤン・ブリューゲル」は、「ピーターブリューゲル」の息子です。画風は父が農民や農村を題材に多くの作品を描いたのに対して、息子のヤンは花を多く描いた詳細な画風が特徴でした。これは父よりも、同じく画家だった母の影響を強く受けたためだと言われています。
サムソンとデリア

サムソンとデリアは、バロック期のフランドル出身の画家「アンソニー・ファン・ダイク」の作品です。作中では、旧約聖書の登場人物で怪力の持ち主として知られる「サムソン」が捕らえられる姿が描かれています。
磔刑トリブティーク(三連祭壇画)

中央の磔刑のキリストを中心に、十字架の左側には聖母マリアと聖ヨハネ、右側には祭壇画の寄進者夫妻が描かれています。
エレーヌ・フールマン「毛皮の女」

ルーベンスが1630年に再婚した妻「エレーヌ・フールマン」が毛皮をまとった姿を描いた作品で、ルーベンスの代表作の一つ。
スザンナの水浴

このスザンナの水浴の作者「ティントレット」は、ティツィアーノの弟子で16世紀ヴェネツィア派代表する画家です。作中では、無防備に水浴をする「スザンナ」の陰で、その姿をのぞき見る2人の老人の姿が描かれています。これは旧約聖書のダニエル書に記された一場面を絵画で表現したものです。
諸聖人の祭壇画(聖三位一体の礼拝)

「諸聖人の祭壇画」は、デューラーが40歳頃に手掛けた作品で、ドイツのニュルンベルクの礼拝堂を飾るために制作されました。絵画の中央にはキリストが描かれ、その下にはキリスト教徒たちが描かれています。また、絵の左側には聖母マリアを中心に聖女たち、右側には洗礼者ヨハネを中心に世俗の人々が描かれています。絵画の右下に小さく描かれているのはデューラー自身です。
十字架を担うキリスト

十字架を担うキリストは、謎多き天才画家と言われる「ヒエロニムス・ポス」の作品です。絵の左下の甲冑をまとった兵士の後ろの人物は「ポス」本人だと言われています。ポッスは、本作以外にも多くの謎めいた作品を残しています。
後援者から崇拝される聖ユスティーナ

聖ユスティーナは、古代ローマのティオクレアヌス帝による迫害で殉教者となった聖人です。その右手側にはユスティーナを崇拝する後援者、左下には一角獣が描かれています。聖ユスティーナはイタリアを中心に多くの画家のモチーフとして描かれています
レオポルト・ウィルヘルム大公の画廊

レオポルト・ウィルヘルム大公の宮廷画家であった「ダフィット・テニールス」の作品です。理由はありませんが、個人的にバベルの塔の次にこの美術館で好きな作品です。
皇帝マクシミリアン1世

作品のモデルとなっている「マクシミリアン1世」は、オーストリア大公であり、神聖ローマ帝国の皇帝でもあった偉大な人物です。作者のデューラーは、ハプスブルク家の歴史を伝えるための画家として、マクシミリアン1世に長年に渡り仕えました。しかし、この作品が完成した時には、マクシミリアンは既にこの世を去っていました。
アダムとイヴ

ルネサンス期のドイツ画家「ルーカス・クラナッハ」による作品で、旧約聖書の「創世記」に登場する最初の人間「アダムとイヴ」を描いています。クラナッハは本作以外にも「アダムとイヴ」をテーマにした作品を複数描いています。
ピンクのドレスを着た3才の王女マルガリータ・テレサ

この肖像画は、「フェリペ6世」の宮廷画家であった「ベラスケス」が17世紀の中頃に手掛けた作品です。マルガリータ王女は、スペイン国王「フェリペ6世」の娘です。
白いドレスドレスを着た5才の王女マルガリータ・テレサ

マルガリータ王女が5歳の時の作品です。この10年後、王女が16歳の頃にハプスブルク家の皇帝「レオポルト1世」の元に嫁ぎました。白の衣装にリボンやカーテンの赤色が映えています。
ブルーのドレスを着た8才の王女マルガリータ・テレ

王女が8歳の時の肖像画。背景には金のライオンや大時計が描かれています。3歳の頃の肖像画と比較すると、身長も伸びて顔立ちも大人びています。
若きベネチアの貴婦人

この「若きベネチアの貴婦人」は、ドイツのルネサンス期の画家「デューラー」が2度目のベネチア訪問時、34歳の頃に手掛けた肖像画です。
ユディト

ユディトは、旧約聖書もしくは、旧約聖書外典の「ユディト記」に出てくるユダヤ人女性です。作中では、ユディトがユダヤ民族をアッシリア軍から救った際に、敵将の首をあげた姿が描かれています。クラナハは、このユディトを絵画のモデルとして何度も描いています。
火

「火」は、イタリア・ミラノ出身でマニエリスムを代表する画家の1人「ジュゼッペ・アーチンボルド」が手掛けた作品です。人をベースに果実や動物などが融合されているのが特徴的です。この作品は「四大元素」と呼ばれる4連作になっています。四連作のうち、この「火」と「水」のみが美術史美術館が所蔵し展示されています。
水

ウィーン美術史美術館が所蔵する連作「四大元素」の一つ「水」になります。
皇帝ルドルフ2世の肖像

この肖像画は、神聖ローマ帝国の皇帝「ルドルフ2世」が、ドイツ画家である「アーヘン」をプラハに呼び寄せて描かせた作品で、実物に非常に忠実に描かれています。ルドルフ2世はプラハをヨーロッパにおける文化の中心地として発展させた偉人です。
白いカーテンの前の若者

ロレンツォ・ロットのキャリア初期の名作。ロレンツォはベネチア共和国の画家で、宗教画や肖像画家としても活躍しました。
聖イグナティウス・デ・ロヨラの奇跡

イエズス会の依頼により「ルーベンス」が手掛けた大作。作中の主人物である「イグナチオ・デ・ロヨラ」は、カスティーリャ王国領バスク地方出身の修道士で、イエズス会の創立者の1人です。
豆の王様の祝宴

作中では、パステーテの中に1粒の豆が入れられ、それを食べ当てた人が、祭りの王になるという祝日の宴が描かれています。パステーテは日本では馴染みがありませんが、パイ生地でできたドイツ料理です。
凸面鏡での自画像

凸面鏡での自画像は、マニエリスム初期を代表するイタリア画家「パルミジャニーノ」の作品で、当時としては画期的な作風でした。凸面鏡に写った自身の姿を見事に表現しています。パルミジャニーノは美形として知られていますが、確かにすごいイケメンです。
ディアナとカリスト

ローマ神話に登場する、月の女神「ダイアナ(ディアナ)」と、木星の第4衛星「カリスト」を題材にした作品。スコットランド国立美術館にも同作者の同タイトルで、少しだけ構図が異なる作品が展示されています。
ベルヴェデーレから見たウィーン

イタリアの風景画家「ベルナルド・ベッロット 」の作品で、「美術史美術館」と並ぶ絵画の宝庫「ベルヴェデーレ宮殿」からの景観を描いたものです。元々「ベルヴェデーレ」は、イタリア語で美しい見晴らしを意味しており、宮殿の屋上などに設けられた見晴らしのための屋根つきのバルコニーや望楼の事を言います。
ベネデット・ヴァルキの肖像

ヴェネツィア派で最も重要な画家の一人とされる「ティツィアーノ」の作品。絵のモデルであるベネデット・ヴァルキは、フィレンツェの詩人で歴史家でもあった人物で、コジモ⼀世の⽂化政策などに深く関わっていた人物です。
妊婦と羊飼い

この「妊婦と羊飼い」は「ティツィアーノ」が晩年に描いた名作です。作中の人物は、ローマ神話の人物であるなど諸説語られています。
ロザリオの聖母

作品のタイトルである「ロザリオ」は、カトリック教徒が祈りに使う数珠(じゅず)の事です。かつて、キリスト教は、トルコ帝国の侵攻を受けましたが、ギリシャのレバントの海戦と呼ばれる戦いで、トルコ艦隊を撃破しました。この勝利は武力によるものではなく、ロザリオの祈りを聖母マリアに捧げたおかげだとされました。作品のタイトルはそういった解釈に由来しています。作中では、左手側の修道士が両手に数珠を持っています。
荊冠のキリスト

カラヴァッジオの作品は、この「荊冠のキリスト」の様に、写実的で暗く重いテーマーのものが大半を占めています。荊冠(けいかん)とは、キリストが磔刑を受ける時に被らされた、いばら冠の事です。二人の男に打たれるキリストが大変痛々しく描かれています。
ゴリアテの首を持つダビデ

羊飼いから身をおこし、後にイスラエル王となる「ダビデ」の少年時代を描いた作品。敵軍の巨人ゴリアテを倒し、その切り落とした首を左手に持つ、旧約聖書のいち場面が描かれています。
見どころ③ 2階のコインコレクション
見どころ④ 美術収集室、古代ギリシャ・ローマ・エジプトコレクションなど
地上階から半階分ほど階段を上がった最初の展示フロアがこの0.5階です。
展示品は西側ウイングの「美術収集室」と、東側ウイングの「古代ギリシャ・ローマ・コレクション」「古代エジプト・オリエント・コレクション」の3セクションに分類されています。
美術収集室(クンストカンマーウィーン)
0.5階の西側ウイング一帯を占有する「美術収集室」には、2,700㎡のエリア内に約2,200点もの美術品が展示されています。展示品は、ハプスブルク家の歴代皇帝や大公達が収集してきた「金細工品」「宝石容器」「彫刻群」「ブロンズ像」「時計」など多岐に渡ります。中でも金細工芸術の名品「食卓用塩入れ(サリエラ)」は必見です。

サリエラは、ルネサンス期のイタリア画家「ベンヴェヌート・チェッリーニ」が、フランス王「フランソワ1世」のために1543年頃に制作した作品です。この豪華なオブジェクトが、塩や胡椒の入れ物として利用されていたのは驚きです。土台の上で向き合うのは、大地の女神テーラと海の神ポセイドンです。
古代ギリシャ・ローマコレクション

東側ウイングの3分の2ほどのエリアを占有する「古代ギリシャ・ローマコレクション」では、比類のない古美術品を通して、古代ギリシャ・ローマの世界を肌で感じることができます。展示作品は、必見の「アウグストゥスの宝玉」をはじめ、歴代ローマ皇帝たちが実際に手にした数々の貴重な美術品やギリシャの壺類、ローマの実在人物胸像群、民族大移動時代の発掘品など、多岐に渡ります。以下よりこのセクションの展示品をいくつかご紹介します。
「アウグストゥスの宝玉」

「歩くライオンの瓦礫レリーフ(バビロン)」

「プトレマイオスのカメオ」

「アマゾネスの石棺」

「エウトロピオス」

古代エジプト・オリエントコレクション
東側ウイングの3分の1ほどのエリア一帶を占める「古代エジプト・オリエントコレクション」では、古代エジプト様式の壁面装飾や、墳墓埋葬品、出土品、石棺、石像、レリーフ、パピルス文章など、古代エジプトに関連した貴重な資料や美術品が展示されています。
見どころ⑤ 世界一美しいカフェレストラン「カフェKHM」
1階の絵画コレクションの左ウイングと右ウイングを結ぶ中央の建物に、世界一美しいカフェレストラン「カフェKHM」があります。
メニューは、コーヒなどのホットドリンクが6〜8ユーロほど、ケーキやトーストなどが15〜20ユーロほどなので、軽食とドリンクで3,000円弱ぐらいのイメージです。少しお高めですが、世界一美しいと言われるほどのカフェなので、入館料込みと思えば安いものです。休憩がてらに是非立ち寄ってみてください。
本記事でご紹介する美術史美術館の見どころは以上です。観光の基本情報やチケット予約・購入方法について知りたい方は、以下の記事なども参考にしてください。
この記事をシェアする