サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会を徹底解説 – 歴史、営業時間、見どころなど

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の外観

本記事では、イタリア ミラノにある「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会」の歴史や観光情報、見どころについて詳しくご紹介いたします。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会とは

イタリア ミラノにある「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会」は、15世紀に建設されたルネサンス様式の教会で、聖母マリアに捧げられています。

この教会は、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂の設計監督を務めた「ブラマンテ」が改修を手掛けた事や、隣接する食堂の壁に、レオナルド・ダ・ヴィンチの壁画「最後の晩餐」が描かれている事などから、世界中にその名を知られています。

1980年には、この教会及び、隣接する食堂などの敷地内一帯がユネスコの世界文化遺産に登録されています。現在の敷地内には「教会」と「食堂(最後の晩餐鑑賞)」の2箇所の見学ポイントがあり、それぞれ入口や入場形態が異なっています。

そのうち、最後の晩餐の見学は有料の完全予約制となりますが、本記事のメインでご紹介する「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会」の内外見学は無料となっています。

最後の晩餐の予約や見学方法を詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

教会の歴史

教会内部

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会は、スフォルツァ家の軍の指揮官であった「ガスパーレ・ヴィメルカーテ」が、1463年に軍隊の司令部として利用していた土地をドミニコ修道会に寄贈した事が起源です。

修道会は早速この土地に修道院と教会を建てる事を計画し、ミラノの建築家「ギニフォルテ・ソラーリ」に設計を依頼します。工事は翌年の1464年より着工され、26年後の1490年にゴシック様式の教会として完成を迎えます。

しかし、そのわずか2年後の1492年ごろ、ミラノ公「ルドヴィーコ・スフォルツァ」は、この場所を自身と一族にふさわしい豪華な霊廟とするべく、新たに建築家の「ブラマンテ」に改修を命じます。

ブラマンテは1492年3月より工事を着工し、既存のゴシック様式から、当時フィレンツェなどで流行っていた「ルネサンス様式」への部分的な改修を行い、教会の東側(内陣部分)に巨大な円蓋を追加しました。

現在見る事ができる教会の姿は、このブラマンテの改修完了後の1497年までにほぼ形作られたものです。隣接する食堂の壁面「最後の晩餐(ダ・ヴィンチ作)」も、ミラノ公の命によってほぼ同時期に描かれました。

観光の基本情報

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会を観光する上で最低限必要な基本情報は以下になります。

営業時間と入場料金

営業時間

【火~土曜】

  • ・10時00分 ~ 12時20分
  • ・15時00分 ~ 17時55分 ※1

【日・祝日】

  • ・10時00分 ~ 12時20分
  • ・15時30分 ~ 17時55分 ※2

※1 7月の午後は15時30分~17時55分。午前は同じ

※2 7月、8月の午後は16時00分~17時55分。午前は同じ

入場料金
  • 無料

ロケーション・アクセス

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会は、ミラノの中心部のわずかに西側に位置しています。ミラノ中央駅やドゥオーモからであれば、電車や地下鉄を利用すれば所要15分〜25分ほどでアクセス可能です。

トラムを利用する場合

トラムを利用する場合の「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会(最後の晩餐)」の最寄停留所は、トラム16番の停車駅「S. Maria Delle Grazie 駅」になります。「S. Maria Delle Grazie 駅」下車後、停留所から教会までは徒歩1分〜2分ほどです。

地下鉄を利用する場合

地下鉄を利用する場合「最後の晩餐」がある「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会」の最寄駅は、地下鉄M1とM2の2線が走る「CADORNA 駅」になります。「CADORNA 駅」下車後、駅から教会までは徒歩8分〜10分ほどです。

詳細なアクセス方法に関しては、別記事内の「最後の晩餐のロケーションと行き方」の項にて詳しく解説しております。

見学の所要時間

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会は小さな教会なので、見学所要時間は、20分〜30分もあれば十分です。

外観の見どころ・装飾・構造

教会正面ファサードの大きさは幅32m、高さ19mほどで、6つの付け柱(ピラスター)によって、5つの壁に区切られています。赤茶色の壁に、漆喰で塗られた窓枠の白い縁取りが、色のアクセントになっています。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の正面ファサード

全部で6つある丸窓のうち、最上部の五つは採光用ではなく風通し用の窓です。自然光を教会内に採り入れる役目は、中央の一番大きい円窓と、4つの尖頭アーチ型の窓が担っています。

教会内部へは、コリント式の2本の円柱に挟まれた大扉から入場します。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の入口

この大扉は15世紀後半に造られたもので、ミラノ公「ルドヴィーコ・イル・モーロ」自身がミラノ大聖堂の工事現場から、大理石を取り寄せたと言われています。

マジェンタ通り沿いの建物南側の壁面は、付け柱によって、7つに隔てられています。各面にはファサード同様に、円形の窓と二つの尖頭アーチ型の窓が備えられています。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の外観

ニ段階構成の瓦屋根は、円蓋を支える立方体の内陣部分へと接続しています。円蓋の上にある鐘楼は、後年の1510年に建てられたものですが、19世紀末の修復時に3mほど低く造り変えられました。理由は定かではありません。

教会の東側からは、教会最後部の後陣や聖具室の回廊などが見えます。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の外観東側

こちらは教会北側の景観で、手前左手には、ブラマンテが手がけた聖具室があります。残念ながらこの聖具室に入場する事はできません。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の外観北側

ブラマンテが手がけたルネサンス様式の円蓋と内陣の外壁部分には、規則的な円模様があしらわれています。この様な幾何学模様の装飾は、ルネサンス建築の特徴の一つです。

円蓋の装飾

建物の中段あたりには、詳細なレリーフも施されています。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の外観の装飾

参考までに、最後の晩餐の壁画がある食堂の入り口は、教会のファサードに向かってすぐ左手側にあります。

「最後の晩餐」の入り口とチケットオフィスの位置関係

ただし、入場には日時指定予約の上で、チケットオフィスで入場チケットをピックアップしておく必要があります。教会への入場だけなら無料(チケット必要なし)です。

外観の見どころは以上です。是非いろんな位置から建物を見学して見てください。

教会内部の構造と見どころ

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会 内部

教会の内部は、中央の身廊と左右の側廊からなる3廊式で、コリント式の円柱によって区切られています。壁面の素材にはテラコッタ(焼成された素焼きの大型タイル)が使用され、円柱の柱頭には花崗岩などの素材が使用されています。

壁面の装飾と柱頭

左右にある側廊の壁面に沿って、左側に7つ、右側に7つ、合計14の礼拝堂が並んでいます。全体のイメージは、下の教会内マップでご確認ください。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会内マップ

各礼拝堂には、ミラノやフィレンツェ出身の商人、数学者、軍人などが埋葬されており、礼拝堂を飾る絵画やフレスコ画、彫像などは、画家「ガウデンツィオ・フェッラーリ」を筆頭に複数人の画家や芸術家達が手がけたものです。

側廊に並ぶ礼拝堂

礼拝堂に関しては、後ほどいくつかピックアップの上、詳しくご紹介致します。

側廊の礼拝堂

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会は、内陣や円蓋部分などは「ルネサンス様式」で造られていますが、基本的なフレーム構造は「ゴシック様式」で造られており、天井にはゴシック特有の「リブヴォールト」構造が見られます。

天井のリブフォールト構造

上下画像の様な、天井アーチが奥に向かって平行に連なっている部分と、交差する補強部分(リブ)との組みわせを「リブヴォールト構造」と呼びます。

天井のリブフォールト構造

この構造によって重量をバランス良く分散して建物を支えています。

教会奥の内陣は低い囲いで区切られていますが、囲い越しに「主祭壇(画像下)」を見学する事ができます。

内陣の主祭壇

主祭壇は色大理石の段差により、わずかに高い位置に置かれています。祭壇の表面には、美しい植物模様と女性を象ったレリーフが施され、壇上の両端には燭台が置かれています。

内陣の主祭壇

主祭壇の真上に視線を向けると、ブラマンテ設計の「円蓋」があります。

ブラマンテが改修を手掛けた円蓋と内陣の天井全体には、ルネサンス様式の特徴である円や直線図形などを規則的に組み合わせる「幾何学模様」が施されています。中央にはラテン語で目を意味する「オクルス」と呼ばれる円形窓があり、16の小さな円窓と16の円模様の長方形に囲まれています。

また、中央の円蓋を囲む4つの円には西方の四大教会博士「ラテン教父のアンブロジウス」「ヒッポのアウグスティヌス」「エウセビウス・ヒエロニムス」「グレゴリウス1世教皇」のトンド(円形画)が描かれています。

円蓋と天井の装飾

下画像は「四大教会博士」の円形画を拡大したものです。右側は4世紀のミラノの司教でもあった「アンブロジウス」だと判別できます。

「四大教会博士」のフレスコ画

内陣の外周の囲いに沿って奥に進むと、教会最奥部の「聖歌隊席」と、キリストの磔刑が飾られた「後陣(アプス)」があります。

後陣と聖歌隊席

かつて聖歌隊席には、ミラノ公の妻「ベアトリーチェ・デステ」の遺骨を納めた白大理石製の霊廟がありましたが、ミラノ公がフランス軍に破れた際に破壊されてしまいました。

理由は分かりませんが、この時破壊されなかった霊廟の蓋部分だけは、イタリア北部のロンバルディア地方にあるパヴィア修道院に保存されています。この蓋部分には、ミラノ公夫妻が横たわる姿を象った墓石彫刻が施されています。

後陣は、最奥部(東側)以外にも、内陣の北側と南側にもそれぞれ設けられています。

内陣と後陣

南側の後陣には、わずかにフレスコ画が残っています。

南側の後陣

以下より、聖堂内に14カ所ある礼拝堂と芸術作品の中から、いくつかピックアップしてご紹介致します。

聖コロナ礼拝堂

右側側廊の4番目には、聖コロナ信者会の信者を埋葬するために造られた礼拝堂があります。この礼拝堂の天井を覆うフレスコ画「受難の道具と八天使(画像下)」は、当時のミラノで最も著名な画家の一人「ガウデンツィオ・フェッラーリ」によって描かれました。

サンタ・コロナ礼拝堂 天井のフレスコ画

側面左手側「キリストの磔刑」と右手側「キリストの鞭刑(エッケ・ホモ)」も同時期に同画家(フェッラーリ)によって描かれたものです。

また、かつて礼拝堂の中央には、ベネチアの巨匠「ティツィアーノ・ヴェチェッリオ」の絵画「キリストのイバラの冠」が飾られていましたが、ナポレオンが17世紀にフランスへ持ち去ったため、現在はパリのルーブル美術館に展示されています。

洗礼者ヨハネ礼拝堂

右側側廊の7番目には「洗礼者ヨハネの礼拝堂」があります。礼拝堂の中央には、ダ・ヴィンチの弟子「マルコ・ドッジョーノ」が16世紀初頭に手がけた祭壇画「洗礼者ヨハネとマルタ島の騎士」で飾られています。

洗礼者ヨハネとマルタ島の騎士の祭壇画

天井には、後期ルネサンスのイタリア人画家「オッターヴィオ・セミノ」が16世紀後半に手掛けた「父なる神と預言者(画像下)」 が描かれています。

洗礼者ヨハネ礼拝堂 天井のフレスコ画「父なる神と預言者」

中央には父なる神である「ゼウス」が描かれ、その周りを預言者達が囲んでいます。

神の恵みの聖マリア礼拝堂

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ礼拝堂"Cappella della Vergine delle Grazie" by Carlodell is licensed underCC BY 3.0

左側側廊の最奥部(内陣の先端付近)から小部屋の様な部屋に入ると「神の恵みの聖マリア礼拝堂」があります。この礼拝堂は、教会が建つ以前からこの場所に存在しており、ビメル・カーティがこの場所に聖母マリアの壁画を飾らせ、設計者のソラーリがこの礼拝堂を外壁で囲む事から建設はスタートしたそうです。

中庭と回廊

中庭と回廊

教会内陣の左手にある扉から「聖具室の回廊」と呼ばれる回廊を見学する事ができます。正方形の中庭を囲む様に走るこの回廊は、その名の通り教会と奥の聖具室を結び、中庭の中央には噴水か設けられています。

中庭と回廊の景観

教会の円蓋と装飾の迫力ある写真が撮影したいなら、この回廊からがお勧めです。

中庭から見た円蓋の景観

敷地内には、この回廊以外にもう一つ「大回廊」があり、最後の晩餐の見学時に通る小部屋からガラス越しに見学する事ができます。

大回廊の景観

まとめ・参考サイト

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会を訪れる方の9割以上が「最後の晩餐」目当てかと思いますが、無料で見学できるこの教会も是非見学してください。

見た目や装飾的なインパクトこそありませんが、ミラノやフィレンツェを代表する政治家や芸術家が多く携わった歴史ある教会です。

事前に「ルネサンス様式」や「ゴシック様式」「ブラマンテ」「ダ・ヴィンチ」などについて軽く予習しておくと、より一層、この教会の見学が有意義になると思います。是非、以下の記事なども参考にしてください。