オランジュリー美術館「睡蓮」を徹底解説 – モネ全8作品と睡蓮の間

パリ
オランジュリー美術館「睡蓮」を徹底解説 – モネ全8作品と睡蓮の間のアイキャッチ画像

オランジュリー美術館を代表するクロード・モネの「睡蓮」。館内には、2つの楕円形展示室を包み込むように全8作品が展示され、その巨大なスケールと独特の空間演出は、写真だけではなかなか伝わらない魅力があります。

本記事では、オランジュリー美術館の「睡蓮」全8作品を実際の展示位置に沿って1作品ずつ解説し、「睡蓮の間」の構成や鑑賞のポイント、モネが睡蓮を描き続けた理由、作品がオランジュリー美術館に展示されるまでの背景まで詳しくご紹介します。

実際に何度も現地を訪れた経験をもとに、作品の見え方や撮影時のポイントなども交えながら、オランジュリー美術館で「睡蓮」をより深く楽しむための情報をまとめています。

オランジュリー美術館の「睡蓮」とは

オランジュリー美術館 モネの睡蓮が展示された第2の楕円形展示室

オランジュリー美術館の「睡蓮」は、クロード・モネが晩年に制作した巨大な装飾画で、2つの楕円形展示室に全8作品が展示されています。

モネはパリ郊外のジヴェルニーに造った「水の庭」を題材に、1890年代末から晩年まで繰り返し睡蓮を描き続けました。オランジュリー美術館に展示されている作品群は、その長年にわたる「睡蓮」制作の集大成ともいえるものです。

オランジュリー美術館の楕円形展示室に展示されたモネの睡蓮

一般的な額縁に収められた絵画とは異なり、作品はいずれも高さ約2m、横幅約6〜17mという巨大なサイズ。湾曲した壁に沿って展示され、鑑賞者を取り囲むように「睡蓮」の世界が広がります。

8作品にはそれぞれ「朝」「雲」「日没」「二本の柳」などの名称が付けられており、描かれているのは睡蓮だけではありません。

オランジュリー美術館 睡蓮の2つの楕円形展示室

水面に映る空や雲、柳の木、時間とともに変化する光などが、作品ごとに異なる色彩や表現で描かれています。

さらに大きな特徴が、8作品が2つの楕円形展示室と一体になるように構成されていること。単に8つの絵画を順番に鑑賞するのではなく、展示室を歩きながら連続する水面や光の変化を体感できる空間そのものが、「睡蓮」の重要な見どころになっています。

次項からは、2つの展示室に飾られた「睡蓮」全8作品を、実際の展示位置に沿って1作品ずつ詳しく解説していきます。

モネ「睡蓮」全8作品を解説

オランジュリー美術館に展示されているモネの「睡蓮」は、2つの楕円形展示室に4作品ずつ、合計8作品で構成されています。

第2展示室(睡蓮の展示室1)には「日没」「雲」「緑の反映」「朝」、第3展示室(睡蓮の展示室2)には「木々の反映」「朝の柳」「二本の柳」「明るい朝、柳」が展示されています。

いずれも1914年から1926年にかけて制作された巨大な装飾画で、描かれているのはモネがジヴェルニーの自邸に造った「水の庭」。同じ池を題材としながらも、時間帯や光、水面への映り込み、柳の配置などによって、それぞれ大きく異なる表情を見せています。

ここからは実際の展示室での配置に沿って、「睡蓮」全8作品を1作品ずつ詳しく見ていきましょう。

日没(Soleil couchant)

モネ 睡蓮 日没(Soleil couchant)

制作年:1914年〜1926年 サイズ:高さ200cm × 横幅600cm

「日没(Soleil couchant)」は、夕暮れ時の光がジヴェルニーの池に映り込む様子を描いた「睡蓮」の一作です。0階の「Salle 02 Nymphéas 1(展示室02(睡蓮 第1展示室))」の西側に展示されており、横幅は約6m。8作品の中では比較的横幅の短い作品ですが、鮮やかな色彩が強い印象を残します。

作品で最も目を引くのが、画面中央付近に広がる黄色やオレンジ、ピンクの色彩です。

モネ 睡蓮 日没に描かれた夕暮れの水面

これは夕日そのものを描いたものではなく、日没を迎えた空の光や色が、水面に映り込んだ様子を表現しています。

その周囲には青や緑、紫などの色が重ねられ、夕暮れの光を受けて刻々と変化する水面が描かれています。黄色やピンクの部分だけを見ると強い光にも感じられますが、作品全体では青や緑が大きな面積を占めており、沈みゆく夕日の穏やかな光として表現されています。

モネ 睡蓮 日没(Soleil couchant)

また、「日没」には一般的な風景画のような地平線や空は描かれていません。画面に広がっているのは池の水面で、そこに空の色や周囲の植物、睡蓮などが重なっています。

水面に浮かぶ睡蓮と、水面に映り込む空や周囲の風景が同じ画面上に描かれているため、どこまでが水面で、どこからが映り込みなのかという境界は次第に曖昧になっていきます。

さらに近くで見ると、黄色やピンク、青、紫などの絵具が大胆な筆遣いで重ねられており、風景を細かく写し取るというよりも、日没の瞬間にモネが感じた光や色の変化そのものを描いているように感じられます。

モネ 睡蓮 日没に描かれた夕暮れの水面

オランジュリー美術館も「日没」を、8作品の中でも特に自由で鮮烈な表現を持つ作品として紹介しており、その大胆な筆触や色彩は、後の20世紀の抽象絵画を手がけた画家たちからも高く評価されました。

「日没」を鑑賞する際は、画面中央の夕暮れの光だけでなく、その周囲に広がる青や緑との色彩の対比にも注目してみてください。少し離れて全体を見ると、水面の一部分を描いた作品でありながら、夕暮れの空や光まで含めた広大な風景を眺めているような感覚を味わえます。

朝(Matin)

モネ 睡蓮 朝に描かれた水面と睡蓮

制作年:1914年〜1926年 サイズ:高さ200cm × 横幅1,275cm

「朝(Matin)」は、朝の柔らかな光に包まれたジヴェルニーの池を描いた「睡蓮」の一作です。0階の「展示室02(睡蓮 第1展示室)」の南側に展示されており、3枚のパネルをつなぎ合わせた横幅約12.75mの巨大な作品です。

個人的には「モネの睡蓮」と聞いて多くの人が思い浮かべるイメージに、最も近いのがこの「朝」ではないかと思います。青や緑を基調とした水面いっぱいに睡蓮の葉や花が浮かぶ光景は、まさにモネの「睡蓮」を象徴するようなビジュアルです。

朝 - 睡蓮

画面いっぱいに広がる水面には、数多くの睡蓮や水生植物が点在しています。作品名はシンプルに「朝」ですが、昇る太陽や空を直接描いているわけではありません。水面に広がる淡く柔らかな色彩によって、朝の光や空気を感じさせているのがこの作品の大きな特徴です。

モネ 睡蓮 朝に描かれた睡蓮と水生植物

水面には青や緑を基調としながら、紫やピンク、白などさまざまな色が重ねられています。

モネ 睡蓮 朝に描かれた睡蓮と水生植物の部分拡大

その中に浮かぶ睡蓮も一つひとつを細密に描くのではなく、周囲の水や光に溶け込むような柔らかな筆遣いで表現されています。

モネ 睡蓮 朝に描かれた睡蓮と水生植物

近くで見ると、植物の輪郭は必ずしも明確ではなく、さまざまな色の筆触が重なり合っています。しかし少し離れて眺めると、それぞれの色がまとまり、水面に浮かぶ睡蓮や光の揺らぎとして見えてきます。

モネ 睡蓮 朝に描かれた睡蓮と水生植物

同じ「展示室02(睡蓮 第1展示室)」にある「日没」が、黄色やオレンジ、ピンクなどを使って夕暮れの鮮烈な光を感じさせるのに対し、「朝」は淡く穏やかな色彩によって、一日の始まりを思わせる静かな光を表現しています。

これは「朝」だけで完結する表現ではなく、モネが2つの楕円形展示室全体に構想した「睡蓮」の重要な要素でもあります。展示室を歩いて「朝」や「日没」などを続けて鑑賞すると、同じ池が時間や光の変化によってまったく異なる表情を見せることが分かります。

「朝」を鑑賞する際は、睡蓮の形だけを追うのではなく、水面全体に広がる色の変化や光の柔らかさにも注目してみてください。巨大な画面を少し離れた位置から眺めると、モネが描こうとした穏やかな朝の空気をより感じ取りやすくなります。

雲(Les Nuages)

雲 - 睡蓮

制作年:1914年〜1926年 サイズ:高さ200cm × 横幅1,275cm

「雲(Les Nuages)」は、第1の楕円形展示室の北側に展示されている「睡蓮」の一作です。3枚のパネルをつなぎ合わせた巨大な作品で、横幅は約12.75mにも及びます。

雲 - 睡蓮の展示エリアと見学者の様子

作品名のとおり、この絵で大きなテーマとなっているのが「雲」です。ただし、モネが描いているのは空に浮かぶ雲そのものではありません。ジヴェルニーの池を鏡のように利用し、水面に映り込んだ空と雲の姿を描いています。

モネ 雲 水面に映り込んだ空と雲

水面には青や紫、淡いピンクなどが複雑に重ねられ、時間や光によって刻々と表情を変える空の様子が表現されています。

モネ 雲に描かれた睡蓮と水面の反射

オランジュリー美術館も、この作品について、池の静かな水面を鏡のように利用して空の大気やピンクがかった雲の変化を表現した作品と解説しています。

一方、水面には睡蓮の葉や花が点在しています。空と雲は「水面への反射」として描かれているのに対し、睡蓮は実際に水面に浮かぶ存在です。

モネ 雲に描かれた睡蓮と水面の反射

「水面に浮かぶ睡蓮」と「水面に映る空や雲」が同じ画面の中に重なることで、奥行きや上下の感覚が曖昧になっているのも、この作品の大きな見どころです。

横幅12mを超える作品なので、一部分だけを見ていると抽象画のようにも感じられますが、少し離れて全体を眺めると、水面に広がる空や雲、睡蓮が一つの大きな風景としてつながって見えてきます。

雲 - 睡蓮の展示エリアと見学者の様子

「雲」を鑑賞する際は「空を描かず、水面に映った空を描く」というモネの表現を意識すると、この作品の面白さがより分かりやすくなります。

緑の反映(Reflets verts)

モネ 睡蓮 緑の反映(Reflets verts)

制作年:1914年〜1926年 サイズ:高さ200cm × 横幅850cm

「緑の反映(Reflets verts)」は、ジヴェルニーの池の水面と、そこに浮かぶ睡蓮を描いた「睡蓮」の一作です。0階の「展示室02(睡蓮 第1展示室)」に展示されており、2枚のパネルをつなぎ合わせた横幅約8.5mの作品です。

この作品の大きな特徴は、地平線だけでなく、池の岸辺まで画面から完全に排除されていること。

モネ 睡蓮 緑の反映の全景正面

描かれているのはほぼ水面だけで、一般的な風景画のように「どこから池を眺めているのか」を示すものがありません。

画面にはタイトルのとおり緑を基調とした色彩が大きく広がり、その上に睡蓮の葉や花が点在しています。

モネ 睡蓮 緑の反映の部分拡大)

周囲の木々や植物そのものを描くのではなく、水面に映り込んだ緑によって、池を取り囲む豊かな植物の存在を感じさせているのが印象的です。

モネ 睡蓮 緑の反映の部分拡大)

一方、実際の水面の位置を認識する手がかりとなっているのが、そこに浮かぶ睡蓮です。

モネ 睡蓮 緑の反映の部分拡大)

オランジュリー美術館の公式解説でも、岸辺や地平線を描かないこの作品では、水面に浮かぶ睡蓮の花や葉によって、水の存在を認識できると説明されています。

モネ 睡蓮 緑の反映 右側部分

この点を意識して作品を見ると非常に面白く、睡蓮がなければ、目の前に広がる緑や青が水なのか、そこに映った木々なのかさえ曖昧に感じられます。

モネ 睡蓮 緑の反映 左側部分

「水そのもの」と「水面に映った風景」が一体化し、睡蓮だけが水面の位置を教えてくれるという構成です。

「緑の反映」を鑑賞する際は、まず睡蓮を見てから、その周囲に広がる水面へ視線を移してみてください。岸辺も地平線も描かれていないのに、なぜ目の前に「池」があると感じられるのか。この作品ならではの面白さが分かりやすくなります。

木々の反映(Reflets d'arbres)

モネ 睡蓮 木々の反映(Reflets d'arbres)

制作年:1914年〜1926年 サイズ:高さ200cm × 横幅850cm

「木々の反映(Reflets d'arbres)」は、池を取り囲む木々や柳の枝が、水面に映り込む様子を描いた「睡蓮」の一作です。

木々の反映 - 睡蓮

0階の「Salle 03 Nymphéas 2(展示室03 (睡蓮 第2展示室))」に展示されており、2枚のパネルをつなぎ合わせた横幅約8.5mの作品です。

作品全体には深い緑や青を中心に、ところどころ紫を帯びた暗い色彩が広がっています。その水面に周囲の木々や柳の枝が映り込み、ピンクや白の睡蓮が点在しています。

モネ 睡蓮 木々の反映に描かれた水面と睡蓮

暗い緑や青を基調とした水面の中で、ピンクや白で描かれた睡蓮が鮮やかなアクセントになっています。オランジュリー美術館の公式解説でも、暗い水面と明るい睡蓮の花とのコントラストが、この作品の特徴として挙げられています。

木々そのものではなく、水面に映った「反映」によって、池を取り囲む植物の存在を表現しており、水面をよく見ると、柳の枝や木々の反映は輪郭をくっきり描き分けるのではなく、緑や青、紫などの筆触が複雑に重ねられています。

モネ 睡蓮 木々の反映に描かれた水面と睡蓮の部分拡大

水面の揺らぎによって木々の姿が崩れ、実際の植物とその反映との境界が曖昧になっているようにも見えます。

鑑賞時は、同じ「反映」という言葉が付く「緑の反映」と比べてみるのもおすすめです。「緑の反映」が岸辺を排除して水面そのものへ視線を集中させる作品なのに対し、「木々の反映」では、水面を鏡のように使い、その外側にある木々や柳の存在まで感じさせるところに大きな違いがあります。

また、睡蓮だけでなく、その下や周囲に広がる暗い水面に何が映り込んでいるのかにも注目してみてください。池そのものを描きながら、画面の外にある木々まで想像させるモネの表現を感じ取りやすい作品です。

朝の柳(Le Matin aux saules)

モネ 睡蓮 朝の柳(Le Matin aux saules)

制作年:1914年〜1926年 サイズ:高さ200cm × 横幅1,275cm

「朝の柳(Le Matin aux saules)」は、池の水面とそこに映る風景の中へ、柳の幹を大胆に取り入れた「睡蓮」の一作です。《睡蓮》第2室(展示室03)の北側に展示されており、3枚のパネルをつなぎ合わせた横幅約12.75mの巨大な作品です。

ここまで「睡蓮」の作品を順番に見てきた場合、まず印象に残るのが画面に大きく入り込む柳の存在です。

モネ 朝の柳に描かれた柳の幹

第2室の「雲」や「緑の反映」などでは、水面とそこに映る空や植物が画面の中心でした。一方、第3室では柳がより大きな存在となり、「朝の柳」では2本の太い柳の幹が画面を縦方向に横切ることで、横に長く広がる水面に強いアクセントを与えています。

モネ 睡蓮 朝の柳の全景

ただし、ここでも一般的な風景画のように柳の木全体が描かれているわけではありません。モネは木の上部を大胆に画面の外へ切り、岸辺もわずかに描くだけにしています。

モネ 朝の柳に描かれた柳の幹

そのため、目の前にある2本の幹がどこまで伸びているのか、池がどこまで続いているのかといった空間の境界が分かりにくくなっています。オランジュリー美術館の公式解説でも、こうした構図によって鑑賞者の空間的な手がかりが曖昧になることが、この作品の特徴として説明されています。

また、2本の柳の間には池の水面が横方向へ大きく広がり、その中に睡蓮や周囲の植物、空の光などが複雑に重なっています。

モネ 朝の柳に描かれた水面と睡蓮

近くで見ると柳の幹や水面はかなり大胆な筆遣いで描かれていますが、少し離れると、それぞれの色がつながり、水面に植物や光が映り込んでいるように見えてきます。

そして「朝の柳」を理解する上で、ぜひ一緒に見ておきたいのが、展示室の向かい側に配置された「明るい朝、柳(Le Matin clair aux saules)」です。

2作品はどちらも2本の柳を大きく配置したよく似た構成ですが、向かい側の「明るい朝、柳」では、水面に映る乳白色の空によって、より明るく柔らかな印象が強くなります。

「朝の柳」を鑑賞する際は、まず第1室にはなかった柳の幹が画面に加わったことで、作品の印象がどう変化したのかに注目してみてください。その後、向かい側の「明るい朝、柳」と見比べると、似た構図でも光や水面の表現によって印象が変わる面白さを感じられます。

明るい朝、柳(Le Matin clair aux saules)

モネ 睡蓮 明るい朝、柳(Le Matin clair aux saules)

制作年:1914年〜1926年 サイズ:高さ200cm × 横幅1,275cm

「明るい朝、柳(Le Matin clair aux saules)」は、明るい朝の光に包まれた池と柳を描いた「睡蓮」の一作です。《睡蓮》第2室(展示室03)の南側に展示されており、3枚のパネルをつなぎ合わせた横幅約12.75mの巨大な作品です。

画面には「朝の柳」と同じように2本の大きな柳の幹が描かれ、その間を埋めるように淡い青や緑、白などを重ねた水面が大きく広がっています。

モネ 睡蓮 明るい朝、柳(Le Matin clair aux saules)

水面には睡蓮の葉や花が点在し、暗く存在感のある柳の幹と、明るく柔らかな水面との対比によって、横長の画面に独特のリズムが生まれています。

モネ 明るい朝、柳に描かれた明るい水面と睡蓮

そして、この作品を特徴づけているのが、作品名にも表れている「明るい朝」の光です。

オランジュリー美術館の公式解説では、水面への反射によって乳白色の空が感じられ、それが作品全体に明るさを与えていると説明されています。空を直接描くのではなく、水面に映り込む淡い色と光によって、明るい朝の空気まで感じさせているのが、この作品の大きな特徴です。

モネ 明るい朝、柳に描かれた明るい水面

また、「明るい朝、柳」を鑑賞する際は、向かい側に展示されている「朝の柳(Le Matin aux saules)」と見比べてみるのがおすすめです。2作品はよく似た構図を持ち、どちらにも2本の柳の幹と池の水面が描かれています。

しかし、実際に向かい合う2作品を交互に見ると印象は少し異なります。「明るい朝、柳」は、水面に映る乳白色の空によって、より明るく柔らかな印象を受けます。

同じ池と柳を題材としながら、光や水面のわずかな違いによって異なる表情を生み出している点も、この2作品を向かい合わせで鑑賞する面白さです。

本作を「朝の柳」を見た後に鑑賞すると、「明るい朝」という作品名にも納得しやすいと思います。

二本の柳(Les Deux Saules)

モネ 睡蓮 二本の柳(Les Deux Saules)

制作年:1914年〜1926年 サイズ:高さ200cm × 横幅1,700cm

「二本の柳(Les Deux Saules)」は、2本の柳とジヴェルニーの池を描いた「睡蓮」の一作です。0階の「展示室03(睡蓮 第2展示室)」の東端に展示されており、4枚のパネルをつなぎ合わせた横幅約17mの巨大な作品です。

横幅17mという大きさは、オランジュリー美術館に展示されている「睡蓮」8作品の中でも最大。高さも約2mあるため、作品の前に立つと一枚の絵画を見るというよりも、目の前いっぱいにジヴェルニーの池が広がっているようなスケール感があります。

モネ 睡蓮 二本の柳を鑑賞する様子1

上下の写真で作品の前に立つ鑑賞者と大きさを比較すると、本作がいかに巨大な作品なのかがよく分かります。高さだけでも人の身長を上回り、さらに横方向へ約17mにわたって続くため、近くでは作品全体を一度に視界へ収めることができないほどの大きさです。

モネ 睡蓮 二本の柳を鑑賞する様子2

実際に鑑賞する際は、一か所に立って見るだけでなく、作品に沿って左右へ視線を動かしたり、少し位置を変えたりしながら眺めることで、この作品ならではの圧倒的なスケールをより実感できます。17mに及ぶ絵画が湾曲した壁に沿って鑑賞者を取り囲むことで、実際に池のほとりに立って周囲を見渡しているような没入感が生まれています。

作品名の由来となっているのが、画面の両側に描かれた2本の細長い柳の幹です。

モネ 睡蓮 二本の柳の部分拡大

ただし、この2本が画面中央の主役として配置されているわけではありません。柳は巨大な画面の両端に置かれ、その間には睡蓮が浮かぶ水面がパノラマのように広がっています。

モネ 睡蓮 二本の柳を鑑賞する様子1

オランジュリー美術館の公式解説でも、この作品には鑑賞者の視線を集中させる特定の焦点がなく、平らな池の水面をパノラマのように眺める構成になっていると説明されています。

そのため、一般的な風景画のように「まず中央の主役を見る」という鑑賞方法とは少し異なります。2本の柳の間をたどるように視線を左右へ動かしていくと、水面に浮かぶ睡蓮や植物、周囲の木々の反映などが次々と現れ、横方向へと風景が連続していきます。

モネ 睡蓮 二本の柳 水面に浮かぶ植物

実際に現地で撮影してみると、作品があまりにも横長なので、全体を1枚の写真に収めるのはかなり難しく感じました。さらに作品の前には多くの鑑賞者がいるため、人の写り込みを完全に避けながら全景を撮影するのも簡単ではありません。

モネ 睡蓮 二本の柳と鑑賞者の様子

「二本の柳」を鑑賞する際は、中央だけを見るのではなく、画面の両端にある2本の柳を意識しながら、その間に広がる水面をゆっくり左右へ追ってみてください。特定の一点を主役にせず、視界全体を池の風景で包み込むという、この作品ならではの構成を体感しやすくなります。

「睡蓮の間」2つの楕円形展示室

オランジュリー美術館の「睡蓮」を語る上で、8作品と同じくらい重要なのが、それらを展示する2つの楕円形展示室、通称「睡蓮の間」です。

オランジュリー美術館 モネの睡蓮が展示された2つの楕円形展示室

2つの展示室は連続する楕円形で構成され、上から見ると「∞(無限)」を思わせる形になっています。巨大な「睡蓮」は湾曲した壁に沿って展示されているため、部屋の中央に立つと作品が周囲を取り囲むように広がります。

オランジュリー美術館 睡蓮の展示エリア

モネは巨大な作品を描くだけでなく、作品をどのような空間に、どのような配置で見せるのかまで構想していました。

オランジュリー美術館 睡蓮の展示エリア

建築家「カミーユ・ルフェーヴル」と共に、展示室の形や大きさ、作品の配置、作品同士の間隔、鑑賞者が歩く動線、さらに天井から取り込む自然光まで検討しています。

オランジュリー美術館 睡蓮の間 天井からの自然光

上部から自然光が入ることで、晴天や曇天など、その日の光によって作品の見え方にも微妙な変化が生まれます。

モネが目指したのは、一枚の絵画を正面から眺めるだけの鑑賞方法ではありません。約2mの高さを持つ巨大な作品に囲まれながら展示室を自由に歩くことで、鑑賞者自身が「睡蓮」の世界の中に入り込んだように感じられる空間がつくられています。

オランジュリー美術館 モネ 睡蓮 楕円形展示室

展示室と作品の方向にも意味があります。2つの部屋は東から西へ連なるように配置され、太陽の動きと対応するように作品が構成されています。例えば「日没(Soleil couchant)」は西側に配置されており、8作品を通して朝から夕暮れへと移り変わる一日の光を感じられる構成になっています。

オランジュリー美術館 0階フロアマップ - 睡蓮8作の配置図

なお、2つの「睡蓮の間」は、美術館全体の展示室番号ではそれぞれ「展示室02」と「展示室03」にあたります。

最初に入る「《睡蓮》第1室(展示室02)」には、「日没」「朝」「雲」「緑の反映」の4作品が展示されています。空や植物が水面に映り込む様子を中心に、朝から夕暮れまでの光の変化が表現されているのが、この部屋の大きな特徴です。

オランジュリー美術館 睡蓮 第1展示室

続く「《睡蓮》第2室(展示室03)」には、「木々の反映」「朝の柳」「明るい朝、柳」「二本の柳」の4作品が展示されています。こちらでは柳の存在がより強くなり、柳の幹や枝が画面に加わることで、第1室とは異なる力強いアクセントが生まれています。

オランジュリー美術館 睡蓮 第2展示室

つまりオランジュリー美術館の「睡蓮」は、8作品を個別に鑑賞するだけでは、その魅力を完全には味わえません。絵画、楕円形の壁、作品の配置、自然光、そして鑑賞者が歩く空間までを含めて、一つの巨大な作品として体験するのが「睡蓮の間」の大きな魅力です。

実際に訪れた際は、一作品ずつ近くで鑑賞した後に、ぜひ展示室の中央付近から部屋全体も眺めてみてください。写真では伝わりにくい「睡蓮」に囲まれるような感覚こそ、オランジュリー美術館でこの作品を見る最大の醍醐味の一つです。

実際に「睡蓮」を鑑賞した感想

オランジュリー美術館 睡蓮 朝の柳(Le Matin aux saules)

筆者はこれまで何度もオランジュリー美術館を訪れていますが、実際に「睡蓮」を鑑賞して毎回感じるのが、写真で見るのと、2つの楕円形展示室で実物を見るのとでは、受ける印象がかなり違うということです。

オランジュリー美術館 睡蓮の間 鑑賞風景

もちろん作品そのものの大きさもありますが、それ以上に印象的なのが、巨大な「睡蓮」が湾曲した壁に沿って視界の左右まで広がっていることです。

オランジュリー美術館 睡蓮の展示エリア

オランジュリー美術館 睡蓮の展示エリア

一般的な絵画のように一歩下がって「一枚の絵を見る」というよりも、自分が「睡蓮」に囲まれた空間の中に入って鑑賞するという感覚に近く、これは実際にオランジュリー美術館を訪れないとなかなか伝わりにくい魅力だと思います。

オランジュリー美術館 睡蓮の日没を鑑賞する様子

一方で、実際に現地で「睡蓮」を撮影してみると、その巨大さゆえの難しさもありました。

「睡蓮の間」では作品を背景に記念撮影する人も多く、8作品すべてを人の写り込みなしで撮影しようとすると、かなり根気が必要です。

オランジュリー美術館 睡蓮の明るい朝、柳の前で記念撮影するカップル

筆者が8作品の全景撮影を行った際も、一方の展示室で人が少なくなるのを待ち、混雑してきたらもう一方の展示室へ移動するということを繰り返しました。結局、2つの「睡蓮の間」を何度も行ったり来たりしながら、40分ほど撮影と格闘することになりました。

もう一つ撮影時に感じたのが、作品全体を一枚の写真に収める難しさです。

モネ 二本の柳 オランジュリー美術館

「睡蓮」は高さ約2mに対して横幅が非常に長く、中でも「二本の柳」は約17mにも及びます。しかも平面の壁ではなく、楕円形展示室の湾曲した壁に沿って展示されています。

モネ 二本の柳 オランジュリー美術館

そのため、一般的なスマートフォンの標準レンズでは、作品によっては全景を一枚に収めるのが難しく感じました。

オランジュリー美術館の睡蓮を撮影する様子

iPhoneなどのスマートフォンで撮影するなら、超広角レンズが使える機種の方が全景を撮影しやすいです。

オランジュリー美術館 睡蓮の雲を中央のベンチから撮影する見学者の様子

ただし、広角で撮影すると実際の見え方より作品が小さく写ったり、湾曲が強調されたりすることもあります。写真だけで「睡蓮」のスケール感を完全に再現するのは難しく、やはり実物を目の前にした時の迫力は別物です。

モネ 睡蓮 細部 筆遣い

また、「睡蓮」は全景に目を奪われがちですが、実際に鑑賞するなら作品の細部まで近づいて見るのがおすすめです。

少し離れた場所では水面や柳、睡蓮として見えていた部分も、間近では大胆な筆の動きや、複雑に重ねられた色として見えてきます。そして再び離れて眺めると、それらの筆触が水面の光や植物の反射として一つにつながって見えるのが面白いところです。

オランジュリー美術館 睡蓮 緑の反映(Reflets verts)の全景

写真を撮る場合も、全景だけでなく気になった部分をアップで何枚か残しておくのがおすすめです。後から見返した際にも、全景写真だけでは分からない色の重なりや筆遣いまで確認できます。

モネ 睡蓮 朝に描かれた睡蓮と水生植物の部分拡大

さらに時間があれば、一度2つの展示室を見て終わりにせず、何度か行き来して見比べてみるのもおすすめです。

第2室(睡蓮 第1室)では空や雲、光が水面に映り込む比較的穏やかな作品が並ぶ一方、第3室(睡蓮 第2室)では柳の幹や枝が画面に大きく入り込みます。8作品を一通り見た後でもう一度最初の部屋へ戻ると、2つの展示室の違いもより分かりやすく感じられました。

モネ 睡蓮の展示室を移動する様子

個人的には、「まず全景を見る → 気になる部分へ近づく → 2つの展示室を歩きながら、もう一度全体を見る」くらいの鑑賞方法が、「睡蓮」の魅力を最も感じやすいと思います。

オランジュリー美術館 睡蓮の朝(Matin)を鑑賞する様子

8作品すべてをきれいに撮影しようとすると、それだけでもかなり時間がかかります。ただ、実際に何度も行き来して感じたのは、「睡蓮」は写真を撮ること以上に、その空間に立って作品に囲まれる感覚を味わうことに価値があるということです。

オランジュリー美術館 睡蓮を鑑賞する様子

全景写真だけでは伝わらない作品の大きさ、近づいて初めて分かる筆遣い、そして2つの楕円形展示室を包む独特の空間。これらをまとめて体験できることこそ、オランジュリー美術館で「睡蓮」を鑑賞する最大の魅力だと思います。

オランジュリー美術館 睡蓮を鑑賞する様子

モネはなぜ「睡蓮」を描き続けたのか

モネが描いたジヴェルニーの睡蓮の池

オランジュリー美術館を代表する「睡蓮」ですが、そもそもモネは、なぜこれほどまでに睡蓮を繰り返し描いたのでしょうか。

その背景を知る上で重要なのが、モネが晩年を過ごしたフランス・ノルマンディー地方の「ジヴェルニー」です。モネは1883年にジヴェルニーへ移り住み、ここを拠点として数多くの作品を制作しました。

モネはもともと自然の風景を描き続けた印象派を代表する画家です。また、一つのモチーフを一度描いて終わるのではなく、時間や天候によって変化する光や色を、同じ題材で繰り返し描く「連作」にも取り組んでいました。

「積みわら」「ポプラ並木」「ルーアン大聖堂」などがその代表例です。モネは同じ場所や建物を繰り返し描きながら、朝と夕方、晴天と曇天などによって変化する光や色を表現しました。

▼ルーアン大聖堂 連作の1枚(オルセー美術館)

モネが描いたルーアン大聖堂 連作の1枚(オルセー美術館)

モネにとって重要だったのは、対象物そのものを正確に描くことだけではなく、その瞬間の光によって、目の前の風景がどのように見えるのかを表現することでした。

そして、晩年のモネにとって最大の題材の一つとなったのが、ジヴェルニーの自宅に造った「水の庭」です。

モネが描いたジヴェルニーの睡蓮の池

池には睡蓮などの植物が育ち、その水面には空や雲、周囲の木々、柳などが映り込みます。しかも、太陽の位置や天候、時間帯によって、水面に現れる色や光は絶えず変化していきます。

モネが描いたジヴェルニーの睡蓮の池(水の庭)

それまでさまざまな連作で「移り変わる光」を追い続けてきたモネにとって、こうした変化を一つの場所で描き続けることのできる水の庭は、まさに理想的なモチーフだったといえます。

さらに「睡蓮」の連作では、モネの関心が次第に「睡蓮の花そのもの」から、水面に映る光や空、雲、植物の反射へと広がっていったことも重要です。

クロード・モネ 睡蓮の植物

オランジュリー美術館に展示されている8作品を見ても、描かれているのは睡蓮だけではありません。「雲」では水面に映る空と雲、「日没」では夕暮れの光、「木々の反映」では周囲の木々や柳の反射などが大きな要素になっています。

▼睡蓮の連作の1枚「日没」

モネ 睡蓮 日没(Soleil couchant)

また、モネは池全体を一般的な風景画のように遠くから描くのではなく、次第に水面の一部分を大きく切り取るような構図へと向かっていきました。

モネ 雲に描かれた睡蓮と水面の反射

そこには地平線や遠景がほとんどなく、空は水面への反射として現れます。水面に浮かぶ睡蓮と、そこに映り込む空や雲、木々が同じ画面上で重なることで、「上」と「下」、「空」と「水」の境界まで曖昧になっていきます。

こうして「睡蓮」は、単に美しい花を描くための題材ではなく、モネが長年追い続けてきた「光によって変化する風景」を、水面という一つの世界の中で表現するモチーフへと発展していきました。

1890年代末以降、モネは晩年まで「睡蓮」の制作を続け、1926年に亡くなるまで、このテーマに長期間取り組みました。その到達点の一つが、現在オランジュリー美術館の2つの楕円形展示室を埋め尽くす巨大な「睡蓮」です。

つまり、オランジュリー美術館の「睡蓮」を見る際は、「睡蓮の花を描いた8作品」と考えるより、「同じ池を通して、変化し続ける光と時間を追い続けたモネの集大成」と考えると、作品の見え方も大きく変わってきます。

そして「睡蓮」はオランジュリー美術館へ

クロード・モネ 晩年 睡蓮

現在ではオランジュリー美術館を象徴する存在となっている「睡蓮」ですが、もともと美術館が完成した作品を購入し、後から展示したものではありません。

現在の「睡蓮の間」が誕生する大きなきっかけとなったのは、1918年11月に第一次世界大戦が終結したことでした。

休戦協定が結ばれた翌日の1918年11月12日、モネは長年の友人であり、当時フランス首相を務めていた「ジョルジュ・クレマンソー」に手紙を送ります。

クロード・モネの手紙を読むジョルジュ・クレマンソーを描いたイメージイラスト

モネが当初申し出たのは、制作中だった「睡蓮」の装飾画2点をフランス国家へ寄贈することでした。長く続いた戦争が終わった直後のことで、モネは「睡蓮」を、戦争の勝利と平和を記念する作品としてフランスへ贈ろうとしたのです。

ここで重要な役割を果たしたのが「クレマンソー」です。モネとクレマンソーは長年にわたる親しい友人で、クレマンソー自身も芸術への深い関心を持っていました。

クロード・モネとジョルジュ・クレマンソーを描いたイメージイラスト

モネが最初に申し出た寄贈はわずか2点でしたが、クレマンソーは寄贈を2点だけで終わらせず、制作中の装飾画全体へと拡大するようモネを説得したとされています。

実際、手紙からわずか6日後の11月18日にはクレマンソーがジヴェルニーを訪れています。こうして当初は2点だった寄贈構想が、現在の「睡蓮の間」へとつながる巨大なプロジェクトへ発展していきました。

1920年には計画が正式な形となり、モネとフランス美術行政を担っていたポール・レオンとの間で、12枚の装飾パネルを国家へ寄贈し、モネの指示に従って専用の建物に展示することで合意します。

さらに計画は拡大し、1922年4月12日には19枚のパネルを国家へ寄贈する正式な契約が結ばれました。

モネとジヴェルニーが握手する姿

展示場所についても検討が重ねられ、最終的に選ばれたのが、チュイルリー庭園の西端に建つ「オランジュリー」でした。モネは1921年10月31日付の手紙で、「睡蓮」をオランジュリーに展示することを受け入れています。

▼現在のチュイルリー庭園

チュイルリー庭園の景観

その後、モネは建築家「カミーユ・ルフェーヴル」と共に展示計画に深く関わり、前章でご紹介した2つの楕円形展示室と「睡蓮」が一体となった空間が形づくられていきました。

しかし、国家への寄贈が決まり、展示室の計画まで進んだからといって、「睡蓮」がすぐに引き渡されたわけではありません。

むしろここから、モネとクレマンソーにとって長い苦闘ともいえる時期が始まります。

モネは完成した作品になかなか満足できず、寄贈契約を結んだ後もジヴェルニーのアトリエで「睡蓮」に何度も手を加え続けました。制作したパネルの一部を自ら破棄するほどで、作品を完成させるためにさらに時間を求めます。

そんなモネに対し、クレマンソーは1922年、すでに「筆と頭脳の力で到達できる限界まで来ている」という趣旨の手紙を送り、作品を完成させるよう促しました。

それでもモネは作品を手放さず、さらに晩年には白内障による視力の低下にも悩まされます。1923年には白内障の手術を受け、その後も「睡蓮」の制作と修正を続けました。

そして1925年、ついには長年の親友だったモネとクレマンソーの友情が壊れかねないほどの事態に発展します。

同年1月、心身ともに苦しんでいたモネはクレマンソーへの手紙で、自分が生きている間は約束した「睡蓮」の寄贈を実行しないという意思を伝えました。

これに対してクレマンソーはすぐに返事を送り、フランス国家に対して交わした約束を破ることはできないとして強く反発します。2人のやり取りは非常に緊迫したものとなり、「睡蓮」の寄贈計画そのものが危ぶまれるほどでした。

それでも2人の関係は完全に途絶えることなく、同年6月には再び関係を修復。体調や視力が改善したモネは、再び筆を取り「睡蓮」の制作を続けます。

クロード・モネ ジヴェルニー 睡蓮 制作

結局、モネは生前に「睡蓮」をオランジュリーへ引き渡すことはありませんでした。1926年12月5日、モネは86歳で死去。約30年にわたって取り組んだ「睡蓮」の制作も、ここで終わりを迎えます。

モネの死後、クレマンソーは親友が残した構想を実現するために尽力し、作品はモネの希望に沿って2つの楕円形展示室へ設置されました。

そしてモネの死から約半年後となる1927年5月17日、クレマンソー立ち会いのもと「睡蓮」の展示室が一般公開されます。

現在のオランジュリー美術館に展示されているのは、最終的に8つの巨大な作品群(22枚のパネル)として構成された「睡蓮」です。2つの楕円形展示室の壁に沿って、全長約91mにわたって作品が広がっています。

こうして振り返ると、現在の「睡蓮の間」は単にモネの代表作を展示するためにつくられた空間ではありません。第一次世界大戦の終結をきっかけとしたモネの寄贈から始まり、作品を完成させようと苦悩するモネと、それを最後まで支え続けたクレマンソーとの約9年間にわたる物語の末に誕生した空間でもあるのです。

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